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Al primo soffio di vento(原題)のyuienのレビュー・感想・評価

Al primo soffio di vento(原題)(2002年製作の映画)
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Al primo soffio di vento
風の一番目の呼吸で

タイトルからしてもう愛さずにはいられない。風の息吹が本当に聴こえてきそうなくらいに、夏日が瑞々しく澄み渡っていた。
雨のように降り注ぐ虫の音色や鳥の軽やかな歌声、清潔なせせらぎ。湖面は光に反射して宝石みたいにきらきら凪いでいる。ピアーヴォリ監督の映した映像世界は柔らかい音や息遣い、ぬくもりに充満されていて、とても心地が好い。

気だるい昼下がりの、あの半睡半醒の世界にとろとろと誘なわれ、瞼はまどろむ。
意識は夢の水にゆっくり足を浸っていると、隣からそっと不穏な気配が忍び寄って来る。遠雷に伴った夕立。不協和音。そして、名状し難いメランコリー。たわいも無く平坦な一日の中にあらゆる感情の揺らぎが凝縮されていた。

監督は間違いなく詩人であるし、同時に腕のいい画家でもあると思う。一枚一枚の構図や静物の配置はもう立派な油絵そのもの。それでいて絵画のように封じ込められた感覚はなく、映像から鼓動を感じる。
その眼から見た世界は優しさと穏やかさに溢れているけれど、その足元には常に緩やかな死の予感が絡みついている。光を通して微細な塵は琥珀色にきらめき、ひと房の睫毛の先にも、一筋の皺のひだにも詩情が積もる。

訪れたことのない遥か遠い地だけれど、なんだか自分自身の子供時代の記憶をぼんやり眺めているような、越境的な懐かしさに包まれるし、なんと言っても猫のあのもふもふした毛並みにこぼれた陽光にたまらなく触れてみたくなってしまう。ああ、額縁におさめて壁に飾り、延々と流していたいなあ。
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