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狂血鬼ドラキュラのhorahukiのレビュー・感想・評価

狂血鬼ドラキュラ(1974年製作の映画)
3.8
不動産営業で客の家に行ったら「君、一ヶ月ここにいてね!」と無茶な要求を押し付けられた挙句に、婚約者まで寝取られるとかたまったもんじゃないね!

今月からレンタル開始した、CBSテレフィルムズによるブラムストーカー原作準拠のテレビ版ドラキュラ。WHD案件にも関わらず、これまたクオリティの高さに驚き!流石『恐怖と戦慄の美女』のダンカーティス×リチャードマシスンの黄金コンビ!

何度も映画化されてきた定石通りのドラキュラ映画なんだけど、襲われる人間たちにはそれほど焦点を当てておらず、過去に英雄的活躍をしたにも関わらず没落し、人々から見放されたドラキュラの孤独に重点を置いて描かれている。

悲哀を全身に纏ったドラキュラを演じるジャックパランスの表情が絶妙で、凄みがありつつもどこか悲しげ。そして、ところどころで優しさをも感じさせる名演技。『魔人ドラキュラ』や『吸血鬼ドラキュラ』での情欲100%なエロい吸血行為とは異なり、本作の場合には吸血行為を純粋な愛情表現として演出している箇所が見受けられ、それがジャックパランスの演技にガチッとハマってるイメージ。本作ではむしろ情欲の発露としての吸血行為を抑え込もうとしている節すら窺えるのが面白い。

人を貶める悪魔としてのドラキュラを強調した作品が主流な時代に、ドラキュラがドラキュラとして存在していることが反証的に人々の中に眠る内面的悪魔を炙り出すかのような作風(脚本)が面白く、原作ではそういった要素も描かれてるのだろうけど、映画として真正面から描いたのは案外珍しいのでは。強烈な光が救いではなく、無慈悲な仕打ちのように思えてしまうのは過去のドラキュラ映画の中でも異質な気がする。このあたりがマシスン脚本のうまさですね。

同時期のユーロホラーで良く見られる、自然風景の中に人物を溶け込ませた絵画のような構図の美しさで見せる映像が多く、威厳を剥奪するかのようにドラキュラを捉える斜めのカメラ、赤と白の装飾の中で白の女たちと黒のドラキュラという象徴的色彩のもと行われる襲撃等、映像が凄くオシャレ。大きな階段を挟んでの上と下の会話、表向きの荘厳さと内に秘めた荒み、そして舞台や美術もゴシックホラーとしての魅力がたっぷり。

テレビ放映時の視聴率が好調だったらしく、本作きっかけで古典ホラーのリメイク作が多く作られたらしい。そりゃこのクオリティがテレビで流れてたら食い入るように見るやろね。
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