半兵衛

Doki Doki ヴァージン もういちどI Love Youの半兵衛のレビュー・感想・評価

4.0
ロマンポルノを終了させた日活が、エロを目的としつつAVとは違い物語をしっかりと作り一流の役者を投入して制作した『にっかつビデオフィーチャー』第二弾。

主人公・秀樹は童貞を喪失できるチャンスを目前に交通事故で天国へ。何とか童貞を卒業したい秀樹は天界の人たちを説得して甦らせてもらうも、空いている男性の体はすぐに準備が出来ずとりあえず気絶した隣町の女の子・真理の体を借りて過ごすことに。最初は不満だったものの、真理の親友・早智子に惚れてしまい一緒に行動することが楽しくなっていくが…。

童貞ものと近年盛んに制作されている輪廻転生ものをミックスして作られたドラマだが、主人公が女性の体に転移しているため肝心の童貞卒業という目標が達成できないのがポイント。そのため性のギャップに悶々としつつ、女性の視点や周囲のドラマ、後半のある展開を通して性行為のチャンスやその意味とはを考えていくようになる。またヒロインの早智子も、憧れの男子・柿沼の内面を見ていくうちに性行為と向き合うようになっていく。そんな二人が後半夜道で性とは何かについて語り合うシーンは性というのは人それぞれで、相手と向き合って行うことが重要なのではということが伝わってくる名シーンに。またこの場面はかつて日活が作っていた『陽のあたる坂道』や『あいつと私』などの石坂洋次郎ものを思わせ、ロマンポルノを経ても日活の精神にはまだそういう思想が残っているのだなと感じさせる。

そのためエロシーンが随所にあっても、鈴木則文のようなひたすら面白く下品に見せていくのとは違いどこか気品のある青春映画の傑作に仕上がっている。ただしたびたび登場する秀樹の友達である童貞少年たちのやりとりはいかにもそういう無知&妄想に満ちたもので、馬鹿馬鹿しくて爆笑できたりと作品のバランスはとれている。あとエロシーンもきちんと出てくる。

またヒロインの早智子を演じる中山忍のアイドル映画としてもよく出来ていて、ヌードにはならないものの水着姿やセーラー服の溌剌とした姿が美しく捉えられている。演技についてはデビューしたばかりのため台詞は棒読み、動きもやや不自然だが共演する役者さんたちの対応や監督の演出によって特に違和感なく馴染んでいる。それでも台詞が多いと小津映画の笠智衆のような喋り方になるのは苦笑せざるを得ないが。

役者陣のなかでは主人公の秀樹を演じる林泰文の演技の上手さが群を抜く、中でも女性に憑依したあとの演技(画面上では林泰文が映るが、地上界の人たちには真理にしか見えない)に注目。最初は単なる男の子の演技にしか見えないが、二回目改めて女性として見ると何の違和感もなく女の子風の演技をしていることに驚かされる。こういう達者な役者だから大林宣彦作品で起用されているんだろうな、そして同じく大林監督の『青春デンデケデケデケ』で抜擢された大森嘉之も童貞グループの一員を自然体に好演。もしかして大林監督はこの作品を見て二人を起用したのか?あとデビューして三年の、まだ少年の面影を持つ萩原聖人の演技にも注目。

秀樹と早智子、二人の結末をあえてぼかしたラストシーンが粋で最高。

主人公が死んだとき、どんどんカメラが地上から離れ主人公の視点で天国へ向かっていくことを感じさせるカメラワークが素晴らしい。
半兵衛

半兵衛