うめ

プライベート・ライアンのうめのレビュー・感想・評価

プライベート・ライアン(1998年製作の映画)
3.5
 アカデミー賞関連作、鑑賞その16。第71回アカデミー賞で監督賞、編集賞、撮影賞、音響賞、音響編集賞の5部門を受賞した。

 冒頭から20分間、絶え間なく続く戦闘シーンが圧巻。正直スピルバーグはそれほど好きではないのだが、観客を飽きさせず楽しませる演出には誰よりも長けている。今作でもその演出を遺憾無く発揮してくれた。様々な視点が入り交じっているのに、トム・ハンクス演じるミラー大尉を中心とした展開をしっかり見せてくれているし、全体の戦況もわかるようになっている。何より驚いたのは、カメラに血や水滴がついていても何の違和感も感じなかったこと。観客がそこにカメラの存在を感じてしまうから、そういう演出は避けそうなのに、敢えて使うことでそれが報道カメラマンのような視点となり、よりリアルな戦場を描き出していた。また戦地の様子を表す様々な音も臨場感を醸し出していた。冒頭20分とラストの戦闘シーンは本当に素晴らしい。

 ストーリーも上映時間を感じさせない工夫がされていた。起承転結がはっきりとしているし、ミラー大尉の謎といったサイドストーリー的な要素もあって、面白かった。ただミラー大尉の救出チームが戦争に苦悩する中盤の展開は、戦争の本質をついているようで興味深かったものの、終盤でお涙頂戴な形になってしまったのは残念。スピルバーグはいつもそうなのだが、ストーリーを綺麗にまとめようとしがちだ。そのせいか、観ているときは登場人物に感情移入できているから感動できるが、後々思い起こすとストーリーについて何も残っていないことが多い。それが毎回、残念だ。

 ひとつ残っているのは「人を殺すほど、故郷が遠ざかる気がする」というミラー大尉の台詞である。一度戦地に行ったら、戦争以前の自分にはもう戻れない。例え生きて帰って来れたとしても、戦争の経験が元の自分を壊す。消えない傷が残る…これはジョゼフ・キャンベルの理論にも通ずるのかなぁなんて思った。過酷な旅をして戻ってきても、昔と同じ生活はできない主人公のような…。

 キャストについては、主役のトム・ハンクスはそれほどピンとは来なかったのだが、狙撃手のジャクソンを演じたバリー・ペッパーが印象的だった。狙撃する瞬間の緊張感が何とも言えなかった。またテレビドラマ「バンド・オブ・ブラザーズ」同様、当時それほど有名でなかった俳優が脇役として登場しているのが面白い。私はポール・ジアマッティが出演しているのが嬉しかったなぁ(笑)

 上映時間が長くて戸惑っている人には、とりあえず冒頭20分間だけでも観て頂きたい。そこは間違いなく素晴らしいので。

 あ、ちなみにバリー・ペッパーはクリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』にも出演していますね。スピルバーグとイーストウッド、同じ大戦を描いたもの…何か色々考えてしまいます。
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