【ノック】
自分の中でSSFF2019年の傑作映画は文句なしにこれだった。短編にして傑作。
20分間の中に不必要なことは描かず、題名の切り取り方のセンスすらも秀でている。
この可愛らしい題名からは想像のつかないテーマ。
この映画はナチスドイツの話だ。
「ラングが亡命して映画は駄作ばかりになった。」
ある朝、2人の男が映画について語っている。
2人の兵隊のいつもの日常であり、おそらく唯一の楽しみなのだろう。
このラングとはフリッツラングのことであるが、彼が亡命してから映画業界はダメになったらしい。
映画の話、地元の話、恋人の話…そんな他愛もない話をしながら彼らがご飯の後にするのはトラックの清掃だ。
このあたりで彼らはトラックの運転手ということが伝わってくる。
しばらくするとトラックに大人や子供大勢の人間が積まれてくる。
腕には見覚えのあるユダヤの紋章。
この時点でこの映画は消して幸せななれない映画だと判明する。
男「これから行くところは今より綺麗で住みやすいんですよね?」
兵隊「(言葉を詰まらせながら)そうだ。」
男「ありがとうございます。ありがとうございます。必ずいつかこの恩をお返しします。」
そんなやり取りの後、ぎゅうぎゅう詰めのトラックが出発する。
途中で男の子がトイレに行きたいという。
兵隊は下ろしてあげ、彼に向かって
小声で逃げろ!という。
しかし、少年は再びトラックに乗り込む。
そして、2人の兵隊はあるくじをはじめる…(この後はネタバレ欄)
ユダヤ人の殺戮を嬉々として行っていた兵隊は一体どれくらいいたのだろう。
同じ人間が戦争という後ろ盾を得て人を殺していく。
彼らのあのやり取りは普段の生活で自分達が行う行為をなるべく忘れようとしていたものに違いない。
そうでなければきっと彼らの精神もおかしくなってしまうのだろう。
大声で歌うとトラックの中の窓ガラスがだんだん曇っていくのがリアルで、その音がリアルで、しんしんと降り積もる雪の中彼は最後に何を思うのか。
2019.6.14