サマセット7

フリー・ガイのサマセット7のレビュー・感想・評価

フリー・ガイ(2021年製作の映画)
4.0
監督は「ナイトミュージアム」シリーズ、「リアルスティール」のショーン・レヴィ。
主演は「グリーンランタン」「デッドプール」シリーズのライアン・レイノルズ。

[あらすじ]
毎日を同じように、"銀行強盗に遭いながら"、穏やかにやり過ごす、笑顔の銀行員ガイ(レイノルズ)。
彼は、強盗、破壊行為など何でもありのオンラインゲーム「フリー・シティ」のモブキャラだった!!!
しかし、彼は、プレイヤーの女性(ジョディ・カマー)に恋をしたことをきっかけに、プレイヤーが身につけるサングラスを手にすることになる。
サングラスを通した世界は、別世界だった。
何でもアリのゲーム世界で、「グッドガイ」であることを貫きつつ、ガイは愛しの彼女の横に立つため奮闘するが!!?

[情報]
元は20世紀フォックスの下で進められていた企画が、ディズニーによる買収後も残存し、製作・主演ライアン・レイノルズと、製作・監督・脚本のショーン・レヴィを中心に公開まで漕ぎ着けた作品。

ゲーム世界やバーチャル空間を舞台にした作品は、マトリックスやレディプレイヤー1、日本のソードアートオンラインを挙げるまでもなく、多数存在する。
今作では、グランセフトオート風のクライム・オープンワールド・ゲームの世界を舞台に、その世界のNPC(ノンプレイヤーキャラクターの略、プレイヤー以外の作中世界の表現のために配置されたキャラクターを言う。ドラクエで言うと、村人や兵士。別称モブ・キャラ)を主役に据えている点に、特徴がある。

ディズニー配給の強みを活かして、ディズニーが権利を有する映画のパロディやオマージュが至る所に仕掛けられている。

メインストーリーは、ゲーム内のモブキャラの主人公が、世界の真実の姿に直面しつつ、恋のために奮闘し、ついには世界存亡の危機に立ち向かう様を描く。
サブのラインとしては、現実世界の、オンラインゲームのプログラムをめぐって、ゲームの支配者たる運営会社社長(タイカ・ワイティティ)と、その不正を暴かんとするプログラマーのミリー(ジョディ・カマー)の対立が描かれ、メインプロットと密接に交差する。

ジャンルはコメディだが、ラブロマンスやアクション、SFの要素も濃厚に含む。

主演のライアン・レイノルズは、代表作のデッドプールシリーズに続き、肉体派コメディ俳優の特性を、最大限に発揮している。
監督・脚本のショーン・レヴィも、「ナイトミュージアム」シリーズなどと同様、世界観構築の技術とコメディ監督の腕を見せている。

今作は、一般層を中心に熱い支持を集め、批評家からも及第点の評価を得た。
推定1億ドルで作られ、最終的には3.3億ドルを稼いだとされる。
コロナ禍と一定期間経過後のディズニープラスでの配信の影響を考えると、想定以上のヒットと言えるだろう。

[見どころ]
まずは、ゲーム世界の再現が楽しい。
ゲームパロディや映画パロディ、ゲーム配信ネタなどもこれまた楽しい。
この世界を「ゲームと思っている」ミリーと、「現実と思っている」ガイの、アンジャッシュ的な噛み合わないやりとりが、またまた楽しい。
とにかく楽しい映画、と油断したところに、差し込まれる、直球の感動。
これは刺さる!!!
キャラクターとキャスティングが良い!!
そして、ゲームの話と見えて実は・・・、なテーマ性がこれまた良いんだ!!

[感想]
これは相当な良作!!!

かなり多様な魅力の詰まった作品だ。
個人的に、グランセフトオート的なクライム・ゲームをプレイしたこともなければ、思い入れもない。
ライアン・レイノルズにも、(デップーは好きだが)特段思うところはない。
だが、より普遍的な魅力が今作にはあるように思う。

大きな魅力の一つは、世界にとって何者でもない「モブキャラ」が、やがて、世界にとって、他に代えようのない、何者かになった時のカタルシスにあろう。

ライアン・レイノルズの風貌と演技は、絶妙にモブキャラの範囲内に収まっており、だからこそ、観客は、ゲーム内のキャラクターに感情移入してしまう。
自分が世界の主役だと確信できるものが、どれだけいようか?
誰もがそれぞれの世界のモブキャラなのだ。

やがて、今作が影響を受けたであろう、トゥルーマンショウにも似た、アイデンティティの危機が、ガイにも訪れる。
すでにたっぷり感情移入したガイの、悲哀!!
胸が締め付けられる!

しかし、今作の最大の感動ポイントは、悲哀からのリカバリーの時にやって来る!!
ガイの同僚バディ(リル・レル・ハウリー)も登場するこのシーンは、真の名シーンだ。

レイノルズ、ジョディ・カマー、ジョー・キリー、リル・レル・ハウリーといずれもサイコーだが、敵役を演じるタイカ・ワイティティも忘れ難い印象を残す。

終盤のプログラムを巡る展開も、実に良い。
最後までスッキリさせてくれる。
これぞ、エンターテインメント!!!

[テーマ考]
オンラインゲーム「フリーシティ」の世界は、そのまま、現実世界のメタファーと考えることが可能だ。
人は誰もが、次から次と襲い掛かるイベントに対処しながら人生を送っている。

今作は、そんな世界にあって、「お手上げ」の受動的な態度ではなく、なんでもできる!という能動的、主体的な態度で臨むことの意義を描いた作品である。
作品全般にこのメッセージが詰まっている。

時には、生きることが無意味に感じられ、世界の理不尽について悩むこともある。
今作は、そんな時に、そっと背中を押してくれる作品である。

ここがどこで、自分が何者か、なんて、本当はどうでもいい。
大事なことは・・・、観ればわかる。

[まとめ]
ライアン・レイノルズの新たな代表作と言って良い、ゲームを舞台としたアクション・コメディの快作。

20世紀フォックスの買収を逆手に取り、マーベルやスターウォーズなどのディズニー・コンテンツを使い倒すあたり、さすがはライアン・レイノルズ。
今作はカメオ出演も豪華なので、鑑賞後調べてみると楽しい。