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男と女 人生最良の日々のjamのレビュー・感想・評価

男と女 人生最良の日々(2019年製作の映画)
4.0
共に生きられなかったが
死ぬ時は一緒に


男は89歳
女は87歳


人の心と身体は
努力しても少しずつ、少しずつ張っていた糸が緩んでくる
そうすると一番表面の記憶が真っ先に消えてしまう


こんにちは

新入りかい?

かつては
"完璧過ぎて怖くなって、一緒にならなかった人"の、
その反応に内心動揺しているけれど
アンヌは穏やかにほほえみ
その笑顔、髪をかきあげる仕草に

50年大切に持っている写真の"彼女"の面影を重ねて

また会おう、すぐに


当たり前だけれど、認知症になると
症状の現れ方は人それぞれで
多いのは、昔の記憶はしっかりとあるのに
最近の新しいことを記憶できなくなること

"昨日の記憶すらないのに"と言うジャン・ルイは
まさにそのかたち
そして現実と妄想の境界がぼんやりとして


美しい想い出のまま
ヴェルレーヌの詩を口ずさみながら
二人で車を飛ばして"逃亡"する

50年前と同じ道を疾走し
50年前と同じ26号室へ

私たちのことは、ここで始まった

二人は愛する運命だった

ジャン・ルイを気遣っての訪問のはずが
いつしか
アンヌに少女のような胸のときめきをもたらし
愛は人を美しくする、という言葉が
観ている私にもしみじみと感じられて


一人になると、死が怖くなるけれど
今は彼の死を恐れている


どれほど愛していても
むしろそれゆえに共に生きる道を選べはしなかった二人


この人と一緒に
歳を重ねていきたい…
そう思える人と出逢えることができれば
自分の生きる意味を見出せる気がして


アンヌとジャン
人生の最期のとき 
それが最良の日々となる
同じ想いで…

陽の光のもと
二人のセルフィーは何物にも変えがたい
jam

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