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朝が来るのslowのネタバレレビュー・内容・結末

朝が来る(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

待ち合わせに来たのは、約束の人ではなくて、思い描いた誰でもなくて、それでもわたしが抱きしめていたい宝物を差し出すのは、思い描けるものではどうせ約束には足らず、約束の人が来ないことも、本当はわかっていたからなのだろう。恐くて、悔しくて、悲しくて。わたしはあなたが生まれた日に点けたバースデーケーキの火を、まだ消せずにいます。

行き場をなくしたわたしが滲む。

朝斗を受け渡した日、身も心も引き裂かれる想いで何とか、それでも立ち尽くすことで精一杯だったひかりの姿が全てだっただろう。それをカメラが抜いた瞬間、震えてそこまでの月日がフラッシュバックした。正直、個人的にはベビーバトンという養子縁組支援グループへの不信感というのがあったし(こういうのは実在するのかな?今は主流なのかな?調べていませんごめんなさい)、終盤ひかりを見た夫婦が、ひかりではないと断言したことへの違和感もあった(顔合わせがあの一瞬だとしても、あの特徴的な顔を忘れる?忘れるかも?)。つまりそれは序盤のひととなりや足下を見て一方的な態度をとったご近所さんそのものだったのだろうし、それにハッとするシーンもやはりもうひとつのクライマックスだったのだろう。そこには子供を授かれないという苦しみだけがあったわけではない。授かったのに育てられないという悲しみに、すんでのところで気がつけたことが、この物語の救いだった。またご近所さんやひかりの両親が、子供のためと言いながら、自分たちのための言動をしていたように感じたのは自分だけではないはず。ひかりの両親の育てられないだろは、まだ幼いから、受験だからというよりも、世間体を気にしたもの。ただそこで舵を切れる親がどれくらいいるだろうか。これは夫婦にも言えることで、わたしたちが会ったひかりさんは、こんなことする人ではありません(だからわたしたちは朝斗を安心して譲り受けることができた)。これはさっきのひかりの痛みにまでは考えが及んでいないところから来た言葉。ひかりはあの年で好きになった相手に、信じた人に、家族に裏切られてしまう。どれ程の月日が経ったかもわからなくなり、夫婦の家にあのような形で押し入ったのだとしたら。何かひとつでも、誰かひとりでも、彼女の救いとなれるものがなかったのだろうか。最後の最後の、彼女にとってのそれが、朝斗だったのだろう。だから、もしその朝斗に拒絶されてしまったら、いよいよ絶望が底をつき、自ら命を絶ってしまっていたかもしれない。その恐怖で朝斗の声を聞いた瞬間、土下座をし、逃げるように部屋を出て行ったのだと思う。そうやって希望を繋ぐことしか、あの時の彼女にはできなかったのだ。
繰り返しみたい作品とはまた違う気もするけれど、観て良かった。監督の作品で思い出せるのは『あん』くらいのもので、過去作にも同じような空気が流れているのかな(監督は木や光や顔をよく映す、そういうイメージだ)。
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