ずどこんちょ

朝が来るのずどこんちょのレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
3.9
特別養子縁組で息子を預かった親子と、望まない妊娠をした中学生少女の話です。

それぞれの立場からドラマが描かれており、その背景や心境を知るからこそ切なく感じました。
子供に恵まれず、長い不妊治療を諦めて特別養子縁組という選択を選んだ東京の夫婦。
「親が子供を見つけるための制度じゃなくて、子供が親を見つけるための制度なんだ。この家には親になれる人がちゃんといるだろ?」
旦那のこの言葉には震えました。自分たちが親として子供を育てられるぐらいの安定した愛情があり、経済力もあり、そこに責任感を感じている。二人の間には子供は恵まれなかったけれども、だからこそ行方がなくて困っている子供達に手を差し伸べたいという誠実な気持ちが伝わってきます。
この映画には、本当に幾つもの場面で心震わせる言葉やシーンがあります。

一方、中学生少女の方のドラマも切ない。
たぶん、ちょっとした誤解や年頃ゆえの想像力の欠如なのです。それでも望まない妊娠をしてしまったことは、人生を揺るがす深刻な問題でした。
本当なら他の多くの生徒たちと同じように記憶の中でキラキラ輝いていた思い出に過ぎない時間だったはずです。青春の淡く微笑ましい恋愛に過ぎなかったはずです。
しかし、少女はそこから次々に大切な人たちとの繋がりが途切れていってしまいました。
最初に逃げたのは相手の薄情な男です。本来なら相手の家族を含めてもっと責任を持って向き合うべきでした。「ホントにごめん」と一言謝って逃げ出し、数年後に見かけた時はしれっと高校に通っている。有り得ない……。
そこから彼女の繋がりはボロボロと崩れ始めます。自分の痛みと寄り添ってくれない両親、軽々しく慰めの言葉をかける親戚。
残念ながら閉ざされてしまったかつての居場所に、同じように不運な人生を歩んで失踪した友人。
何もなかったあの頃は笑顔が可愛らしかった少女が、いつしか笑うことを忘れて傷付いていく姿が実に悲しい。

そんな経緯を見ているがゆえに、産んだ子どもに託した手紙に潜ませた彼女の心の声はとても刺さりました。
あの時の彼女が抱えていた苦しみや痛み、諦めや絶望。そして生まれてきた時にきっと感じたであろう喜びと罪悪感。
形としては残らないかもしれないけど、すべて確かに存在していたのです。

光の映し方がすごく綺麗で、様々な場所で光がキラキラと輝いています。思い出の中の桜の花、森の中。東京の夜景や東京と広島の海にも綺麗な光が差し込んでいます。
光、光、光、もちろん産んだ母親の名前も"ひかり"。
そんな彼女から自分とこの世界とのすべての繋がりが断たれた時、光を放つ月に雲が翳ります。最後の希望と思われた存在にも見放され、絶望に包まれた深い夜が訪れるのです。
タイトルにもつながる「朝が来る」時。それは、彼女に再び光が差し込む時であり、もう二度とその目に収めることはないと諦めていた"朝"が来る時でもありました。