ちろる

カセットテープ・ダイアリーズのちろるのレビュー・感想・評価

4.0
10歳の誕生日を迎えたジャベドは日記を書き始める。
それは大親友マットとの楽しいたわいもない毎日。いつのまにか月日はたちジャベドたちは17歳へと成長していた。

イギリスで育ち、イギリスの文化に染まり、イギリス人の親友を持ち、イギリス人の学校へ通う
それなのにいつまでもお前はパキスタン人なのだと父は言い、イギリス人のマットとの付き合いを否定する。

ジャベドが時折書き綴る詩は、マットのバンドの歌詞となるが、最近その内容は社会批判やサッチャー政権への批判ばかりだったため、マットからは辛気臭いからダメ、恋をしろと言われる。
そんなマットは一方で彼女とよろしくしまくりという事で自然と距離が離れてしまっていた。

そんなマットが、ある時運命的な出会いを果たす。
それはブルース・スプリングスティーンの音楽との出会いで、それを教えてくれたのが廊下でぶつかったループスという青年だった。
この運命の出来事は単純に好きなアーチストに出会えたというだけでなくて、ループスという、同じ境遇、同じ解放を目指す、理解者に出逢えたと言うかけがえのない瞬間であり、この出会いによって、色々と燻っていたジャベドに確かに火がついて行く。

2人が色々トライして行くシーンに感動するのだけど、特にブルース・スプリングスティーンの歌を武器に、2人がモールを街を歌い踊り歩くっていうシーンが、すごい。
周りの人もとても楽しそうで、シンプルに音楽が作る幸せの形を体現してくれていた。

そんなこんなで2人でなきゃ作れなかった居場所、そして居場所ができたからこそ進むべき道が光って、前に進むことができた。

そして、この作品、父と息子の姿もとても丁寧に描いている。
ジャベドの文章を読んだこともないし、息子を手放したくないから、「アメリカへ行く」という息子を頭ごなしに否定する。
そんな父親が改めてジャベドの詩を読み、学校でのスピーチを聞き、息子の崇拝するブルース・スプリングスティーンを聴くことで、心を溶かしていく父の姿にほっこり。

もし、あのまま父親との関係がそぐわなければジャベドはきっと逃げるように出ていっただろう旅立ちも、父と分かり合えたことによって、絆の深まる『旅立ち』になったことがわかって泣けてくる。
父と息子、2人が分かり合えたのちに車で聞くカセットテープを入れ替えるシーン、これも憎い演出。
流石にほろっと泣かされました。

作品は移民差別や貧富など社会問題を描きながらも音楽の、そして言葉の力を再認識させてもらえる作品。
本当にいい青春映画にまた出逢えて幸せです。
ちろる

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