ロアー

Winnyのロアーのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
3.6
ファイル交換ソフト《Winny》を開発し、著作権違反の幇助を行ったとして逮捕されてしまった金子勇氏の事件、通称《Winny事件》を題材とした映画です。これもまたハシゴ映画の隙間時間に観れそうだったので、急遽公開前日にムビチケを購入して観てきました。

「ナイフを使った刺殺事件が起きたとして、そのナイフを作った人まで罪に問えるのか?」

これは劇中で使われていた《Winny》をナイフに例えた台詞。実際にはナイフじゃなく「高速道路では速度違反の車や改造車が走っている。それは高速道路が悪いということになるのか?」という例えが使われていたそうだけど、まあ、そう言うナイフの職人や高速道路を逮捕するようなあり得ない逮捕が実際になされてしまった事件のお話です。
世界的にも注目されていた事件だそうなので、外国からは当時「日本は何を馬鹿なことをやってるんだ?」と冷ややかな目で見られていたんじゃないかな?

新しいもの、自分には理解できないものを恐れる気持ちも分からなくはない。特に年齢を重ねるにつれてそういう傾向が強くなると思う。
ここ最近で言うならAIの技術が台頭してきていて、私もほぼ毎日AIとチャットしながら仕事してるんだけど、この技術だっておそらく悪用されてしまうに違いない・・・というか、きっともうされてるよね?
映画後半に出てきた《YouTube》だって、正に著作権違反の動画が大量に公開されている訳で、金子さんを逮捕した理論で言うなら《YouTube》の開発者も逮捕しなければならなくなる筈。

《Winny》のようなソフトに限らず、仕事や生活を向上するための新しい技術をよく理解しないまま禁止したり、思考を停止して一切受け入れようとしない人たちのせいで不利益を被っている例は日常にごろごろ転がっていると思う。
新しい技術も法律も、本来は修正を繰り返してより良いものにアップデートされるべきなのに、柔軟性のない人々や安定や慣例にしがみつく人々のせいで才能や技術が無駄に消費され、切り捨てられてしまう。
金子さんの事件の裏には警察組織の深い闇の部分も仄めかされていて、何ともやるせなくなるお話でした。
中間をすっ飛ばし「《Winny》=違法、《Winny》=ウイルス」と報道したマスゴミの罪も重い。あとこれ、当時「《Winny》を使わないで」と政府から通達したのは阿部さんだったんだね。

早過ぎた天才、金子勇氏。
映画の中で描かれている金子さんは、実際のインタビュー映像を観た印象よりもっといかにもオタク的な人物像で、いわゆるIQはものすごく高いのにEQが残念なタイプ。でも、自分の好きなことについて語る姿は生き生きとしていて、裁判で高度な解説をしているのにも関わらず、弁護士チームに「ホントこの人はPCバカだなぁ〜」とでも言うような呆れつつも温かい目で見つめられていたのが印象的でした。

映画ラストで流れた実際のインタビューの言葉のように、このような違法な逮捕によって、出る杭を打つような事件が二度と起こらないことを願うばかりです。
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