なお

Winnyのなおのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
4.0
「花粉症に負けるな!春のひとり映画祭」1本目。

「Winny事件」。
2000年代初頭、パソコンなどのガジェット類に詳しい電子機器マニアのみならず、社会全体をも巻き込む一大騒動を引き起こしたファイル共有ソフト「Winny」を巡る一連の事件を基にしたドラマ作品。

✏️悪は誰だ?
現代においても、どこかの大企業や組織がコンピュータウイルスによる情報流出事件が起こすたびにわかに話題になる「Winny事件」。
この社会問題ともなった一連の事件を「非常に丁寧に描いた」という印象を受けた作品。

といっても自分の「Winny事件」に関する知識は鑑賞前はほとんどなし。
鑑賞前日にWikipediaで「Winny」「Winny事件」「金子勇」の記事を一通り読んだレベル。

だがしかし、そんな予備知識ゼロの人間でも、ネットに無料で公開されている文章を数十分かけて読んで鑑賞に臨むだけで、いろいろな思いや感想を胸に抱かせてくれるドキュメンタリー作品だった。

この事件が巻き起こった2000年代初頭から中盤ごろ、自分はまだ小学生~中学生くらいの年ごろで、おもしろフラッシュ倉庫とかニコニコ動画などをひたすらサーフィンして青春を謳歌していた時代。
「Winny」というソフトの名称こそ知っていたけど「よく分からないけど使うとヤバそうだな」くらいの認識だった。

その後自分はIT業界に就職。
出向先で書かされる誓約書に「Winny等のP2P型ファイル共有ソフトを無断でインストールしないこと」と記載があり、ここで初めてWinnyが「社会に多大な損害と影響を与えたコンピュータ・プログラム」であることを実感した。

本作を鑑賞した上でも、未だに賛否の分かれる事件だと思う。

資源の少ない日本にとって重大な産業のひとつである「知的財産」が濫用される可能性があるのではないか、という「未必の故意」があった金子氏の胸中に存在した可能性も当然ある。

無罪判決が確定した金子氏に「Winnyはどうやったら適法で扱えるソフトウェアなのか」という質問があったが、それに対しての金子氏の返答は得られなかったという逸話もある。

しかし、それを踏まえた上でも自分は金子氏の言論や主張に対して「賛」寄りの立場だ。
(無論、本来対価を支払って見るべき映画や漫画といった芸術作品を第三者が無料で公開するといった著作権侵害を肯定するつもりは毛頭ない)

本作はどちらかというと、「金子氏が著作権侵害を幇助したという”冤罪”を回避するまでの道のり」を描くことにスポットを当てており、「金子氏は悪くなかった」というスタンス。

そのため、「金子氏は善人であった」というバイアスがかかる可能性が多分にあることは重々承知の上だが、それを考慮したとしても、金子氏は真に「自分が面白いと思った技術を駆使して、自分が面白いと思ったものを作りたかっただけなのではないか」と感じた。

それを助長させてくれたのが、金子氏を演じた東出昌大さんの演技力。

少々変わった面はあるが、自分が「金子勇」という人物に対して抱いていたイメージとはかなり違い、非常に前向きで悪く言えばどこか能天気でもある。

自身とともに法廷で戦う弁護団の面々に対して時にユーモアを挟むなどのひょうきんさもある人物のように描かれていたのが印象的で、弁護団との心温まるやり取りもちらほら。

また、本作のエンドロールにおいて金子氏本人の当時の映像が挿入される。
あの映像の中に登場する金子氏は「ソフトウェア技術屋」そのもので、口下手で朴訥としているが誠実そうな人柄であるようにお見受けした。
とても「著作権を濫用して世界を変えてやろう」という思惑を持ってWinnyを開発する悪人には見えなかった。

「ただ自分が作りたかったものを作って、結果的に世の中がもっと良くなれば」
幼いころから商店街のディスプレイとして置かれていたマイコンをいじり、自分の作りたいものを作る「生来のエンジニア」であった金子氏を演じきった東出さんの演技力には脱帽。

✏️技術に罪はない
金子氏、ひいては「Winny」というソフトウェアの善悪を判断する上で、我々観客がその判断に迷う要因となる事件がもう一つ本作では描かれる。
それは奇しくも、Winny事件と同時期に発覚した愛媛県警の裏金問題である。

この愛媛県警の裏金汚職事件発覚の決め手となったのは、Winnyで流出した架空の領収書画像データだった。

そもそもWinnyとは、ネット上での情報発信者の匿名性を確保し、何らかのリークや告発をした人物に不利益が及ばないようにすることを目的として開発された「Freenet」に多大な影響を受けている。

このFreenetも、言論弾圧を回避するという目的で作られたのがすべての始まり。
正しい使い方をすればWinnyも「声なき者が声を上げることを手助けする」ツールとなっていたはず。

「Winnyは、金子勇という人物は善であったか、悪であったか」という判断は、本作を見る観客の価値観や過去の経験に一任されているという点もまた面白い。

☑️まとめ
劇中描かれている通り、金子氏は心筋梗塞により2013年に42歳という若さでこの世を去った。

劇中でも描かれている金子氏の偏った食生活や、全プログラマの宿命「運動不足」もあったのかもしれないが、この一連の事件の裁判による心労、つまりストレスも心筋梗塞を誘発する主な原因となったであろう。

「プログラマの皆さんは、これで作りたいものを作っても犯罪にはならなくなったので安心してもらえればいいと思います」
逝去前、無罪を勝ち取った金子氏はこのような旨のコメントを残している。

「作りたいものを作る」という人間の根底にある本能のような意思、創作意欲は決して否定されるべきではない。

漫画作品をWeb上で違法な形で無料公開していた「漫画村」など、Winnyに代わる著作権侵害の新たなタネが発生しつつある昨今。

「著作権」という、形がなく適用の範囲が常に変わり続ける権利をどのように守っていくべきか。
これらを再考するきっかけを観客に与えてくれる社会派作品。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★★☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★★☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2023年鑑賞数:38(13)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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