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WinnyのSQURのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
4.0
私がインターネットに触れる以前の事件で、実際のこの人がどのような人柄であったのかは、私には分からない。映画はだいぶ”綺麗なところ”だけを見せていたように思うし、実際の人間は大抵もっと泥臭い側面を持つものだ。その前置きをした上で、私はこの映画の主人公の在り方に自分と通じるものを感じたし、そのせいなのか鑑賞中中盤以降はずっと涙が溢れ続けていて止まらなかった。
どのくらいの人が私の共感に共感してくれるのかわからないが、この映画の主人公である金子勇は星空に対する憧れがあり、それが初期衝動とされる。星空は、地上から遥か上空に広がるもので、それに対する憧れは、人間社会に渦巻く難しさや煩わしさとは無縁の場所に位置する。そして、また彼は「自分のコミュニケーションは言葉ではなくプログラミングだ」と語る。ここから読み取れるこの映画における彼の人物像は、言ってしまえば人間社会に相いれず、遠い世界を夢見る青年である。しかし、彼はwinnyの裁判を通して、人間社会に対する愛を語る。より技術が発展し、多くの人の生活がよくなること、そのためには自分の人生させ犠牲にしても良いという。この一見アンビバレンツな、人間社会から離れる方向の衝動と、人間社会に向かう方向の衝動が、彼の中では同居している。そのことが映像表現からひしひしと伝わってくる。私は、その理屈では納得し難い二律背反が、しかし当たり前のように同居する感覚が、とてもよくわかるな、と思った。だから泣いた。
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