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WinnyのDのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
2.0
2023年 27本目

「出る杭は打たれる」と作中でたびたび言われるが、日本社会がその特徴的な同調圧力によって、天才と呼ばれる人々をことごとく潰してきたことは何度も目の当たりにしてきた。ノーベル物理学賞を獲った真鍋氏が「日本には帰りたくない」と受賞スピーチで語ったことも記憶に新しい。インターネットで象徴的なものといえば、このWinny開発者逮捕事件が真っ先にあがるだろう。工業社会による経済成長によって世界一の経済大国となった日本は、その同調圧力による勤勉な性格と長時間労働が功を奏したといえるが、今はアイデアこそが大きな資本を生み、天才が求められる時代であり、ものの見事に真っ逆さまに転落している最中である。豊かな日本を取り戻すために第一に改善しなければならないこういった日本の性格を強く批判するために、今改めてWinnyを映画化して人々に知ってもらうことは重要だと思った。

ただ、本当に知ってもらうだけで終わってしまった映画になったな、という印象がこの映画を観た感想だった。無駄なショットがあまりにも多く、カットを切るのもことごとく遅い。広告では「不当逮捕から無罪を勝ち取った7年の道のり」とあるが、完全な嘘で、地方裁判所の有罪判決までしか描いていない。2時間の映画にしては内容が薄すぎる。金子勇とその弁護人側の視点ばかりが着目され、国家権力や当時の世間はどのように考えていたのか、一体なにが問題視されたのか、といった批判的意見が欠落していた。日本のIT技術が世界へ飛び出す道を閉ざされてしまったことがいかに愚かで酷いことであったかについて全くの異論はないが、「法的に不当だった!国の横暴だ!許せない!」だけ叫んでも仕方がない。また日本に天才が現れたとき、再び出る杭が打たれることになるだろう。ネット私刑が流行りに流行りまくっている昨今、またメディアの誘導で国家にとって貴重な人材が失われてしまうことに気づけずに、ネットリンチ拡散の一助を担ってしまう恐れがある。二度と同じ過ちを犯さないように考えていくためには、法的な是非に議論を留めるのは明らかに不足している。

「ナイフを作った人」を罪に問えるか。→問えません。で終わる話ではない。ナイフを作った人にとって、そのナイフで人を殺す人が増えてしまえば当然苦悩するし、法的に問題がなかったとしても批判の声は必ず上がる。人間社会をより良いものにするために便利なものを開発することは間違っていない。そしてその開発によって被害を受ける人間が出てきたとき、批判の声を上げることも間違っていない。次にどうするべきかその都度その都度冷静に考えていく必要がある。Winnyはそもそもどんな仕組みでどんな風に利用されていたのか。どんな可能性があったのか。今後どう使っていくべきなのか。主人公によって語られてはいるが、それはドラマとして「純粋な開発者像」を描くことで感情移入を促すものとしてしか機能しておらず、映画のテーマとして描かれることはなかった。

素晴らしい題材の映画だっただけに、惜しさが目立って残念でした。
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