近本光司

Winnyの近本光司のレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
4.0
字幕なしの母国語で、これだけ活きのいい現代の法廷ものを目撃できることを慶賀しなければならない。やはり法廷ものは字幕を読み進めていくだけでは十分でないのだ。じっさいの裁判同様、法廷で戦わされる言論のパフォーマンスに、その調声やリズムに酔い痴れることこそ、こうした映画の醍醐味といえる。
 刑事裁判において弁護士が争点を見つけ出すこと、映画の作劇において脚本家や演出家がカタルシスを捜し出すことはほとんど同じなのだということに気づく。いずれもスペクタクルなのだから当たりまえの話だ。しかしスペクタクルであるがゆえに、誰の視座に立つかによって物語は幾とおりもありえるし、いくらでも「真実」は変わりうる。YouTubeに3年も先駆ける開発された「Winny」の生みの親である金子勇が、もしあのとき初審で無罪判決を勝ち取っていたとしたら、そもそも起訴に至ってなかったとしたら、いまのインターネットのありようはぜんぜんちがうものになっていたかもしれない。
 敏腕弁護士を演じた吹越満がとにかく格好よくて、ちょっと恋に落ちそうになった。あのキャラクターがキッチュになる手前のぎりぎりのところで踏みとどまっているのは、演技力か演出力か、はたまたその両方か。検事の渋沢清彦や弁護士の皆川猿時もいい味を出していたが、なんといっても東出昌大。本当にすばらしい役者だと、いつ見ても感動する。閉廷前の最後に読み上げた渾身のひと言で、東出の額はびっしりと汗をかいていた。