Yuya

ドリーミング村上春樹のYuyaのレビュー・感想・評価

ドリーミング村上春樹(2017年製作の映画)
4.1
いやぁ 悩ましくもあり 目から鱗のような…
屈託もなく 掴み所もなく 浮遊するような
どっかファンタジックなドキュメンタリー

“完璧な文章は存在しない”
その一文における この場合の英訳は『文章』イコール『text』なのか あるいは他のニュアンスを持ち得るのか…

生粋のハルキストではなくとも それなりにその文体を嗜んでたはずなのに
生まれ育ったこの国の いつも知ってる場所であるはずなのに
まったく 異なる世界が スクリーンに広がってゆくのには ちょっと戸惑ってしまった

自分の理と照らせば 文化における“想像力”と 現実における“視野”とは 別次元だと思ってはずなんだけど
翻訳家の彼女の目が ハルキ・ムラカミの想像性を通して映したものは 広大な視野による 純粋な現実のように 受けとれたんだよなぁ

村上春樹の短編に出てくる “かえるくん“の存在が このドキュメンタリー映画の本質を明快に言い得てる気がする
たしか阪神の震災後に書かれ そこには東京を大地震から救う為の闘いが 描かれていたけれど
それは 実際に起こり得る地震と 実際には起こり得ない蛙vsミミズの闘いという 相容れないはずのもの同士の混在であって
現実を受け入れる為の 心の奥底への探求が
物語の大きな主題になっている印象を受けた

そう考えると 自分が生きてきた街の風景と
村上春樹の小説に焦がれ その探究心を経て彼女が見つけた日本とは まるで違う世界であるのは必然で もしかしたら僕らが見たこともないニッポンが 彼女には見えているのかもしれない

人が 映画を観て 音楽を聴いて 小説を読んだりするのは
自分の心の奥深くを旅することで
この世界をもっと広く そしてもっと遠くを見つめる為なのかもしれない
Yuya

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