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恐怖のセンセイのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

恐怖のセンセイ(2019年製作の映画)
4.5
【自己防衛の美学から観るカルト教団の栄枯盛衰】
先日、映画呑みでフランス人から「オススメコメディ映画教えてくれ!」と言われた。ブンブンは大きなイチモツから花火をぶっ放すポスターでお馴染み『THE DEATH OF DICK LONG』をオススメした。彼は私にジェシー・アイゼンバーグが空手道場に通うブラックコメディ『THE ART OF SELF-DEFENSE』を教えてくれました。

本作はもしも、したまちコメディ映画祭in台東が今も続いていたら映画秘宝祭なんかで上映されていたであろう作品だ。

カフェに行けば、外国人に悪口を言われ、街を歩けばチンピラに喧嘩を売られる。職場では周りから疎まれているヘナチョコマンが、胡散臭い空手道場に惹きこまれ、自衛の為に空手を習うというもの。

空手道場は日本人が観るとあまりにも酷い。ウェス・アンダーソン調に真面目に空手をやっているのだが、

「空手は言葉だ」
「私の名前はセンセイだ」
と道場の主人がスピリチュアルな発言を言いまくり、梅沢富美男に刀を持たせたような明らかに胡散臭い男の肖像を前に

「マスターは技を極めたから帯はレインボーなんだ。だから君たちも頑張りたまえ。」

と語り始める。この道場の主人が、大した学も成績もなく生徒を教えているのは明白であるが、主人公はどっぷりと空手の道へと突き進むのだ。

これはある種のカルト教団に入り抜け出せなくなる心理、宗教によって周りが見えなくなる現象を的確に風刺したブラックコメディといえる。

主人公は承認欲求に飢えている。社会は彼を遇らうが、道場の人は皆「いいぞ!」「バランス力のある受けだ」と褒めてくれるのだ。それにより、彼の欲求は満たされてくるが、やがて現実との乖離にフラストレーションを抱き始める。

「なんで、ボクが強いことを皆知らないんだ。」

と。黄色帯に昇進したからとスーパーで黄色いラベルの商品を大量購入したり、家でスーツの上から帯を締めたりするのだが、彼の褒められたい欲求は満たされない。

そのフラストレーションはやがてヴィジランティズムへと繋がっていき大惨事へと発展していく。

よく、カルトや変な宗教に嵌る人が笑いものにされるが、何故彼ら/彼女らが胡散臭いものに嵌るのかといった根本についてはあまり考えられていない気がする。本作を観るとそういったメカニズムがわかるのだ。

純粋なコメディとしても面白いので、日本劇場公開してほしいなー
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