Ricola

宝島のRicolaのレビュー・感想・評価

宝島(2018年製作の映画)
3.9
宝島というプールなどがあるレジャー施設で繰り広げられる、さまざまな人間模様を画面に収めた作品である。
単なるのほほんとしたヴァカンス映画ではなく、宝島で過ごす人々が抱える思いや自由と規律について、さらには人種問題や多様性について人々が語る様子が映し出されるといった、社会的な側面も盛り込まれているのが特徴的だろう。
とはいえ、社会問題を大々的に押し出した作品なのではなく、あくまでもドキュメンタリー映画の姿勢を貫いている。


親の同伴なしでこっそり宝島に入ろうとする少年たちやプールサイドでナンパしている青年たち、さらには運営側の会議の様子も映される。
朝早く宝島へと向かって歩く少年とばあちゃん。道中で出会った猫を撫でて朝から癒やされたゆっくりした時間を過ごしている。
飛び込みする青年たちをスタッフが注意するものの、彼らが目を離すと連鎖して次々と橋から水の中に飛び込み始める。
水鳥と泳ぐおじさん、若い女性とのランデブーを一人で語ってるおじいさん…。
このように、さまざまな背景を持つ人々が、この宝島という一つの空間に集まって思い思いの過ごし方をしている。

宝島内を走るトロリーに乗った少女が外を見つめているシーン。水辺や水中ではなくて、野原で日光浴やバーベキューを楽しむ人たちが映される。
宝島の日常であるのどかな様子を、心地よい陽の光とともに享受できるシーンである。また、ヴァカンス映画らしい側面が強調されるシーンだと言えるだろう。

そして、この作品の主題と言っても過言ではなさそうな自由と規律について語りたい。
レジャーパークである宝島に対して、懐古主義的なおじいさんはこう嘆く。
昔は自然のなかで遊ぶことは当たり前であったが、今は囲われた規制下の「自然」であたかも自由であるように遊ぶことを強いられるのだと。
若者たちは、警備員から逃れることや危険な飛び込みでスリルを楽しみたいという。運営側は、そんな彼らの自由気ままな行動を規制しようとする。
このような構図だけでなく、人々の会話の節々にも自由と規律というテーマを感じ取ることはできる。
例えば、大臣に歯向かって逮捕された過去を話す警備員。
アラブ系の移民の夫婦が故郷の手の加えられていない自然の豊かさを懐かしむ。
宝島の休みの期間では、「白鳥も人がいないから楽しそうだね」という子供の何気ない言葉。
不特定多数が集まる施設だからこそ、規律は必要だけどそこには真の自由は介在しえないのだ。

最後に、子供の演出について少し触れておきたい。
基本的にこの作品に登場する人々は、カメラを意識したような素振りを見せることがない。しかし、まだ幼い子供にとってはそれが難しいことがよくわかるシーンがある。
お兄ちゃんと遊んでいるマイケルという名の幼い子供は、かくれんぼを始めるとカメラにチラチラと目線をやっている。
これはやはり幼い子供だからこそ、製作側が指示することなく自然発生的に生まれた目線なのだろうか。
我々は彼の無邪気な視線にほっこりすると同時に、この作品のドキュメンタリーとフィクションの境目に気付かされることになるのではないか。

本来人々が癒やしを求めて過ごす場の宝島だが、そこは多種多様な人間の人生の一部を覗き見ることのできる、言わば世界の縮図なのかもしれない。
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