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宝島のnetfilmsのレビュー・感想・評価

宝島(2018年製作の映画)
4.3
 パリの北西部にあるレジャー・アイランドに訪れる様々な人々。たった数ドルをケチって柵を飛び越えて侵入する子供たちやナンパ目的の若者。そして湖に浮かぶ老人や黒人の兄弟。その誰もが愛らしく、微笑ましい。高い柵を越えられない子供たちと高飛び込みでチープ・スリルを味わう思春期の青年たちとの対比。昼だけの時間、夜までの時間は有限で、だからこそ尊く、家に引き籠もらずに最高の夏にしようとフィジカルに賭けたからこそ人は誰かと繋がる奇跡を求める。知らない土地だからこそ大胆になれる側面もある。美しい風景を見てしまったせいで人は自らの足跡を夏の記憶に刻む。ちょっと大胆でちょっと挑発的なそれぞれのヴァカンス。明日死ぬかもわからないと今日に賭ける人々の群れは、俳優でもないのに全てがキラキラしている。ギヨーム・ブラックによる用意周到な脚本はなく、全てはその日その場所で出会った人々との気楽なスケッチを気楽にしたためただけ。カメラを向けて「ハイ、本番」のような職業俳優とのやり取りもそれはそれで素晴らしいが、素人を切り取るギヨーム・ブラックの視線が天才的で、ここで紡がれる物語は何年もかけて熟成させた大作よりもある意味映画的で、即興的。

 まぁ何と言うかギヨーム・ブラックはこのような行き当たりばったりの風任せスタイルが一番似合う。もしかしたら彼の最高傑作はこれかもしれないと思う。人間の可笑しさを切り取った人間賛歌を訪問者側からの視点で見るだけではなく、運営側やセキュリティ、海の家の従業員らの視点も追うことにより、このレジャー・アイランドがサンクチュアリ=聖域にも見えて来る。旅行者と運営側とではヴァカンスに対する概念が何もかも正反対だ。子供の頃はあんなに楽しみだった夏休みもひとたび大人になれば憂鬱な楽園と化す。もっと安全に、もっと経済的にと運営側の人々が喧々諤々交わす後半の展開が肌に合わない人々もいるかもしれないが、世界の秩序を守るのはこのように旅行者と対話し、時に毅然とした対応を取ることで、事件を未然に防ぐ縁の下の力持ち的な人々に支えられている。だがそれでも限りある夏を私たちは狂ったようにエンジョイしたい。アフレコ的なダイアローグでドキュメンタリー的に大事に切り取られた者もいれば、即興の魔術でさくっと演技しただけの人々もいるのだが、その辺りの素人の切り分けが大変絶妙で、映画になり得るマテリアルを切り分けて行った時点で、ほとんど構成まで出来上がっていただろうと推測される。余技的に撮った映画の方がギヨーム・ブラックの実力を表すとは何たる皮肉だが、あぁ今年もまた夏が終わって行く。毎年夏の終わりになると無性に観たくなる映画。
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