えいがのおと

音楽のえいがのおとのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.6
ああこうやって、したくなっちゃったんだよな、僕たちも。


ヤンキーが、出来心で音楽を始め、地元のロックフェスに出る、そんな映画。
予告編どおりのプロットはネタバレを恐れる必要がないから、鑑賞後に綴りたくなった全てを記すことができてありがたい。


本作は、「熱量」と「間」の映画だ。

原作から有する音楽を始めた頃の初期衝動的な「熱量」はもちろんだが、監督が狂気的に費やした7年という歳月は、作品の鑑賞に当たって度外視しようにもさせてくれず、観客に特殊な温度感をもたらす。
手書きで書かれたという背景や、現在ではほとんど使用されることのない、実写撮影を元にしセル画を描くロトスコープという手法は、近年のアニメ作品では観ることのできない、人間らしい温かみを観客に与えてくれる。
特に、ロトスコープによって描かれる人物たちの独特な動きは、なんとも言いがたい小気味よさを感じさせ、完全にデフォルメされているにも関わらず、彼らがこの世界のどこかに存在するかのような、実在性を印象付けている。

また、本作の題である音楽が、どの表現手法よりも時間に縛られているメディアであるからか、本作は「間」について考えさせられる。
原作の大橋裕之が、漫画的手法でコマの大きさや、台詞のないコマを挟むことで生み出していた独特なテンポ感を、朴訥な3人の語りや編集で忠実に表現している。
また、原作において描かれていない、ページとページのあいだ(間)を、長編映画へと昇華するために膨らまされているが、それらは説明的過ぎず、どちらかというと僕たちに想像させるための「間」を与えてくれている。
そして何より、荒々しくも繊細に鳴り響く劇伴は、丁度いいタイミングでなんとも言いがたいい、本作ならではの空間づくりに欠かせない。
シンプルさが生み出す無数の「間」は僕たちに空想と感情の爆発をもたらすのだ。


「せーの」と3人が間合いを見計らって鳴り響く音楽は、誰もが持っていた熱い衝動を思い出させてくれる。
ああ、また好きなことを好きなようにやっていきたいな。