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リスペクトのsomaddesignのレビュー・感想・評価

リスペクト(2021年製作の映画)
5.0
リスペクッ!(額を壁に打ち付けながら)

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ソウルの女王アレサ・フランクリンの伝記ドラマ。少女の頃から抜群の歌唱力で天才と称されたアレサ。ショービズ界でスターとしての成功を収めた。しかし、彼女の成功の裏には、尊敬する父、愛する夫からの束縛や裏切りがあった。すべてを捨て、彼女自身の力で生きていく覚悟を決めたアレサの魂の叫びを込めた圧倒的な歌声が、世界中を歓喜と興奮で包み込んでいく。

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上映時間に到底収まりきらない要素と情報量。
経過を廃した省略話法と時系列が細かく行ったり来たり。混乱するほどではないけど、中盤まではなかなか話が前進しなくて「なかなか出世しないなー」と飽きそうになる。

アレサ・フランクリンが2018年に亡くなったのをすっかり失念。偉人って亡くなった後も当たり前に作品を見たり聞いたりするので、亡くなった実感が薄れがち。なんなら二次元キャラみたく、いつまでも死なない感すらある。「リスペクト」がオーティス・レディングのカバーって今作を見て初めて知った。

個人的にはRHYMESTERの名曲「RESPECT」のサンプリング元としての方が馴染み深い。古今東西それぞれ立場は違えど、各々を尊重し合い手を取り合うために必要なキーワード。高らかに歌われるアレサ・フランクリンのパワフルさたるや。
期せずしてサザンソウルの聖地フェイムスタジオの様子は2013年のドキュメンタリー「黄金のメロディ〜マッスル・ショールズ〜」で予習済み。見といてよかった。

複雑な生まれ育ちと父親やパートナーからの抑圧と束縛。加えて60年代アメリカの公民権運動…、アレサ・フランクリンの人生を通じて現代アメリカの歴史も透けて見える作り。人種差別と暴力と宗教的乖離…と多方向に抑圧されてきた彼女の魂の叫びとしての歌声。ソウルミュージックとはよく言ったもんだ。

直接的な暴力描写を避けるのも昨今の潮流かしら。観客への配慮もあるだろうし「プロミシング・ヤングウーマン」と同じく、作り物でも暴力描写を見せ物にしないって表明にも思える。直接的な表現を避けることで、被害が表に見えにくい闇に深さも強調された気もするし、省略描写の多い本作にあって男性キャラの不穏な加害性も匂わされてる。


ジェニファー・ハドソン、流石の歌唱力。アレサ・フランクリンのモノマネじゃなくて、抑圧から解放されるような魂の叫びとしての歌声を体現してて熱かった。言いたいを歌に変えてるけど、シャウトするだけじゃなくて魂を歌に溶かして漏れ出るよう。彼女自身が自分を持て余してる感じ含めて、抱える苦しみや喜び、祈りを歌に昇華させてく姿が神々しい。

フォレスト・ウィティカーのパパ役も素晴らしかった。厳格な宗教的規律と享楽のショービズの論理を都合よく行き来して、アレサを護るようでカゴの鳥にしちゃう。聖職者といえど家族の事となると道を簡単に外れちゃう卑近さ。暴力に躊躇ない不穏さの一方、宗教家として厳格に自分を立たせ慈愛を持って家族を見つめてる雰囲気もある。ただのDV親父じゃなくて、強さと脆さをあわせもつ、複雑な人物像に見せてて流石。

波瀾万丈の人生を2時間ちょいでなぞるので駆け足感は否めない。特に中盤までは父親やパートナーに束縛され、否応なくステージに立つ姿が続くので見ていて辛い。上手に自分の意志を発露できないシーンが続くので、信仰が彼女の救いとなるあたり、宗教にアレルギーある人は違和感あるかも。歌が彼女が彼女自身でいられる「声」となるまでの物語で、駆け足な割に着地点までが長く感じちゃう人がいるのも分かる。


余談)
最近の田島貴男が晩年のアレサ・フランクリンに似てきた気がする。
優れたソウルシンガーは骨格や肉付きが似てくるんだろか?


74本目
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