es

スターフィッシュのesのネタバレレビュー・内容・結末

スターフィッシュ(2018年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

監督自身の為のセラピー映画。
雰囲気は好きだが、映像表現の多くがどこかで見た事があるものを寄せ集めたような印象を受けた。ただ主人公の内省的な映像である事を鑑みると、敢えて既視感のあるものにした可能性もあるのでなんとも言い難い。

主人公がかつて願っていたのは世界から人間が消え去り煩悩もなくなり空っぽの世界になること。
東洋文化への興味があるように感じたので無線機に記された108の数字は煩悩の数を意味しているのかもしれない。無線機を置き外に飛び出すラストは、煩悩を捨て去り解脱に向かうという受け取り方もできる。そう考えるとラストシーンは、煩悩が吸い取られ浄化されていくようにも見える。
数字で関連づけると7つのテープの7という数字はキリスト教的に捉えると完全な数字であり重要な意味を持つし、煩悩と結びつければ7つの大罪と向き合い見つめ直すという意味にも捉えられる。
友人が亡くなった日がイエス・キリストの誕生を祝う12月25日の翌日の12月26日で7日後に新年がやってくる事を考えると再生と死という意味合いや数字などをある程度意図しながら作中に散りばめていると思う。タイトルからして何かしらの隠喩が好きなタイプであることは間違いなさそう。

とは言え解脱の話と捉えるのは妄想し過ぎかもしれないが、作中で示されるプロセスはキューブラー・ロスの提唱した死の受容過程の5段階を感じさせるので、自己セラピー要素があるのは間違いないと思う。

繰り返し出てくる水の描写は水に流すという意味合いよりも洗礼的な罪を洗い清める意味合いが強いと思うけれど、"Forgive and Forget."は赦す側に与えられる言葉で赦される側が辿り着く答えにはふさわしくない気がする。ただ、あのメッセージが送られたのは侵略者に対してだった事を考えると、別の見方もできる気がしてきた。
「実話に基づく」という部分から監督=主人公と想像しながら見ていたが、友人の死と向き合う部分は監督自身の投影で、不倫に関しては主人公の性別とは異なる監督自身は赦す側である可能性もある。
そうなると自分を裏切った相手が苦悩する様を描くことによるセラピーになってしまうのでかなりアレだけれど、主人公と侵略者という二つの存在に自己投影していたと考えると実際はどうか分からないが妙にしっくりきた。「白鯨」の引用は復讐心の連鎖から解き放つ"Forgive and Forget."への示唆に繋がるが、監督自身がエイハブでありモビーディックでもあったという表裏一体への示唆とも捉えられる。

芸術作品というものは本来パーソナルなものであってよいと思うので、鑑賞者にもクライアントの心理検査の結果を読み解くような気持ちで映画を見る気持ちが必要かもしれない。
es

es