海

スターフィッシュの海のレビュー・感想・評価

スターフィッシュ(2018年製作の映画)
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数日まえ、夢をみて目がさめた。わたしは泣いていて、だけど悲しかったわけじゃなくて、安心していた。夢の中で、だれかと二人きりで、そのひとのかおすら見なかったけれど、ただわたしは顔さえ知らないそのひとのすべてを認めていて、認めている自分のことを愛していた。ずっと宿していたいとおもうくらい、きもちいい、浮力を持った、はてのない、深い、やさしい気持ちだった。あの日の朝の5時のわたしは、こう書いている。「わたしが、あなたのために死んで、死んだあとも、このからだで花を咲かせたり、このたましいであなたを導けたらいいけれど、もし、自分のために生きて、本当にいっさい、何のためにもならず、自分のために死んでいったとしてもだれにもそれを咎めることはできなくて、それでもどうしても、できることなら、わたしはあなたのためになって死にたい」。許せない人のことをゆるしたい、愛しているひとのことだけをあいしたい、ゆるしたら忘れられるから、きっとあいだけになれる。わかっていても、許すことはたぶん、許されることよりも難しい。目をとじると、右のまぶたの奥と、左のまぶたの奥は、別々のものを感じている。最近は、こんなふうにおもう、わるいことをした人たちは、死ぬまでの時間をかけて罪をつぐなおうとするか、あるいはそれに耐えられず、許しを得たいその相手こそを悪者にして、「私を認めない貴方は悪魔だ」と唱えはじめる。彼女は、どちらでもあった。苦しみたくないから、会いたい人以外をこの世から消して、だけどつぐないたいから、自分を怖い目に遭わせ、ときにはからだを痛めつけて、悪夢みたいにこわれた人のかおを見て怯える。すべてに理由が与えられるほどすべてが空虚におもえる。それがわたしにとっての彼女の世界だった。知っているはずだ。許すことさえできれば忘れられるけれど、許されてしまえば忘れることができなくなる。本当はゆるしたい、だって生きていたい、本当はゆるされたくなんてない、だって、生きていたい。かみさまのわたしと、ひとでなしのあなたと、かみさまのあなたと、ひとでなしのわたしで、手をつなぎ、永遠におわらない輪っかをつくる、それはこの上ないほどうつくしくて、それは見たこともないほどみにくいの。この世界が、二度と朝をむかえなくても、二度と雨を降らせなくても、二度と、暗い海を白く波打たせなくても、わたしがあなたを照らし、わたしがあなたを濡らし、わたしがあなたを陸まで押し返し、わたしがあなたを生かす、わたしがあなたを許さないでいる。そして約束する、いつの日かわたしたちがかならず、あなたたちをゆるすことを。
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