垂直落下式サミング

宇宙の彼方よりの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

宇宙の彼方より(2010年製作の映画)
3.5
宇宙の彼方の色。異次元の色彩。
舞台をドイツにかえた独自の脚色をしていて、ラヴクラフトのチョー読み難い「あの感じ」は、よく表現されている。
ある謎を追っている人が、信用のおけない証人の口から語られるたいそう不気味なおはなしに耳を傾けていると、徐々に事件の裏にあるおぞましい何かにその手が触れる寸前まで手を引かれて連れていかれてしまう…。ラヴクラフト全集を途中で挫折したときのあの感じが、映像に落とし込まれていて、そこはとてもよかった。
行方不明の父親を探して、ドイツくんだりまで長旅をしてきた主人公。消えた父の足跡をたどり昔の知り合いだという男に出会うのだが、どうやら様子がおかしくて…。
僕だったら飲んだくれジジイの昔ばなしは、ソッコー対話拒否モードになっちゃうだろうな。時系列もあっちゃこっちゃでワケわかんないのに、お前さんの父親の行き先を知るには、この土地を知る必要があるのじゃよ。かつてワシが体験したある不気味な出来事があってだな、まずはそれから…。
もうヤダちょっと誰かコイツお会計してーっ!あーし回りくどいはなしとかマヂ無理。僕の中のオネエは吠え、ギャルはぼやいた。ミステリーとか推理ものとか伏線回収のどんでん返しとか、そういうの全般得意じゃない。記憶力ないし、落ち着きもない。教え甲斐のない生徒でっしゃろ。まあ、いいでしょう。どうぞ続けて、先生。
それでも、ワケわかんないはなしが続くのに途中までは面白かったんだよな。途中までは。文句と皮肉だけはいっちょまえっ。ギャルですのでっ!
さてさて、一先ずギャルには引っ込んでいただいて、本作の見物である色についてだ。白黒映画だが、あるものだけ着色されて表現されている。これが、好事家からは評判だったらしいけど…。どうかなあ…。僕はなんつーか、安直ってーか、ハッキリとこれ脚色としてよくないなあと思いましたけども。
色つけないほうがよかったんじゃないかな。これまでみたこともないような言葉にするのもはばかられるおぞましい○○…ラヴクラフト作品によく出てくる何個修飾語ついてんねんって表現、そのまがまがしさを形容することはできないけど、いくつもの言葉の羅列で読み手に想像を委ねてくる「あの感じ」が、ドラマとしてはしっかりと積み上げられていくのに、あんな突飛なことするから台無しになってんじゃん。
時の文の小説に描かれている状況を映像にするとなると、具体的なブツを出さなきゃいけないわけですから、そりゃあハードル高いんだろうけど…。
「みるだけで気がふれてしまうような禍々しい光」を、観客の想像力で補完できるのが白黒映画なのですから、あんな色なんて必要ないんですよ。煙突からピンクの煙がっ!とか、赤い服の女の子がっ!とか、そういう映像的な衝撃は必要なかったと思うんだよな。
「一度みたら忘れられない」「とても言葉にできない」「言い表すことができない色なんだ」と、さんざん期待をあおっておいて白がかった薄紫って…そりゃないじゃんさ。
万人が気色悪がって嫌な気分になる色使いなんて、デザインしようにもできないんだろうけども、だったら堂々とモノクロをつらぬいて、あの発光体はとんでもない色してんだって、こちらに思わせてくれるのが、気合いの入った表現ってもんじゃあないですか?こんな小手先に頼るくらいだったら、最初から白黒になんてせずに総天然色でどんどこいやっ!
あとは、僕がラヴクラフト作品群そもそも気に入ってない問題も根深いよな。なんか、土壌汚染とか海洋汚染とか、それは産業革命以後に工場の産業廃液などが原因で起こった公害問題であって、真摯に向き合うべき社会課題であるはずなのに、人智を越えた超常的な存在のせいにして、あろうことか否キリスト教文化圏の自然崇拝の神様を元ネタにしたりして、そんでもってユング的な集団的無意識みたいなのを後ろ楯に説得力出してくるから、非白人としてはちょい居心地悪いのです。
まあ、好事家向け映画ですし、原作ハマんなかったやつには刺さんなくても当たり前か。重箱の隅ばかりに目がいってしまいましたが、今週の俺はひと味違う。映画ビミョーだったからって機嫌損ねるワイとちゃうねん。週末はご機嫌にいきるのよ。ギャルですのでっ卍