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犬王のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
4.3
『犬王』INU-OH 2022

「収録が始まってからも『これで大丈夫かしら!?』という不安な期間が少しあって。でも、早めに気づけて良かったと思うのは、私はただ声優やアーティストとして呼ばれているのではなく、モンスターとして呼ばれているんだ。私はこの作品に渦巻くマグマの中核を担う、ドデカイ熱源として呼ばれているんだ、って。それに気づいたときに「あ、やれる!」と思ったんです。そこからは軽やかに腹が決まったというか、本当に楽しかったですね」アヴちゃん(パンフレットより)

映画をみた感想はこのアヴちゃんの発言に尽きる。ドデカイ熱源がグルグル渦巻くマグマがたぎる映画だった。

湯浅監督の過去作品には歌い踊る開放感溢れる場面があった。「夜は短し歩けよ乙女」の珍妙なダンス。「夜明け告げるルーのうた」の圧倒的なラスト。

あの歌と踊りが「犬王」の大半を埋め尽くす。ライブか?フェスか?と思うほどの熱量。

足利将軍の命で壇ノ浦から草薙の剣を引き上げた友魚。剣の祟りで友魚の父は亡くなり友魚は視力を喪う。

琵琶法師・谷一の弟子となった友魚が出会ったのはひょうたんの面をつけた少年。右手が異様に長く左手は肩からいきなり生えている。平氏の呪いがかかっていて少年が踊りのパフォーマンスを達成すると平家の怨霊が成仏して呪いが解けて身体が少しずつ治っていく。「どろろ」の百鬼丸と似てるけど妖怪を倒して体を取り戻す百鬼丸とは少し違う。

少年は宣言する。犬王と名乗り猿楽の踊り手として名を成すと。

犬王は観阿弥、世阿弥と同時代人だがほとんど資料が残っていないらしい。ただ「圧倒的な踊りで民衆の人気があった。足利義満の寵愛を受けた」という記録があるだけ。

この少ない史実をもとに書かれた古川日出男の原作を「アンナチュラル」「MIU404」の野木亜紀子が脚色。

湯浅監督の演出はストーリーテリングは大胆なカットと省略で、ライブ場面は長回しでじっくり観せる。

ライブでの仕掛けもアニメならではのファンタジーではなく室町時代の技術でもここまで出来ただろうと描く。宙乗りの場面でも身体を吊る道具を省略しない。だから犬王の人気に説得力が生まれる。

リアリティに基づくアニメならではの飛躍。そして怨霊などの幻想的存在。アニメだけど熱量高い画面だ。

友魚(後に友有)と犬王の語り踊る平家物語外伝は従来の平家物語の枠をはみ出る革新的なものだ。琵琶法師達はその革新性を認めるのだが足利義満は違った。南北朝を統一し幕府の支配を浸透させるには破天荒な平家は邪魔になるのだ。さて犬王と友有の運命は?
この先はぜひ劇場の大画面でどうぞ。

追記
この映画のブルーレイが出たらどんな映画の棚に置いたら良いだろうと想像してみる。この映画の隣に並ぶのはきっと
「ロッキー・ホラー・ショー」
「ファントム・オブ・パラダイス」
「ジーザス・クライスト・スーパー・スター」
「TOMMY」
「ボヘミアン・ラプソディ」
「アマデウス」、、、
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