喜連川風連

犬王の喜連川風連のレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
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湯浅政明作品の底流に流れる「熱」が大好きだ。

ピンポンのぺこvsドラゴン。マインドゲームラストのクジラを駆け上がるシーン。映像研の上映シーン。この作品は徹頭徹尾こうした熱量で出来上がっている。

もしも南北朝時代にKISSがタイムスリップしたら?こんなこと考えたこともなかった。室町期の頭にモノを乗せて運搬する大原女が手を上げてスターに熱狂する!全く新しい映像体験。

(当時は処刑場として有名な)六条河原でインスタレーションLIVE、清水寺でWe will rock you、金閣寺で新体操やフィギュアスケート風のダンスをしながらLIVE。

まさにアニメ(動き)の宝庫。犬王という史料のない人物だからこそ許された自由な演出空間が広がる。

舞台で踊る主人公、犬王は平家の怨霊を抱えている。怨霊の声を聞き、LIVE(猿楽)をすることで、それらが成仏する。

神楽から進化した猿楽(能楽)は、もともと神に捧げる神事だった。なるほどこれは上手い設定である。

ただあれだけ、琵琶にこだわったのなら、音もエレキギターではなく、琵琶や当時の楽器を使ったロック音楽に仕上げて欲しかった感はある。

夜は短し歩けよの際も、演劇シーンの音楽がもっさりしており、そこだけ自分と肌感が合わない(超主観)

コロナ禍において、怨霊や呪いを主題にする作品が増えている。(呪術廻戦、鬼滅の刃等)本作もこうした作品の一つか。

人物の葛藤シーンが少なく、山となるシーンがあまりないため、見る人によっては淡白に映るかもしれない。例えば音楽性をめぐって、2人が対立したりしない。

加えてLIVE中の音楽がややもっさりしているため、至高のカタルシスにはならないが、色彩や3DCGを使った立体的な描写はぜひ劇場に足を運んでみて欲しい。

序盤の壇ノ浦と琵琶法師の語りの描き方、湯浅正明さんに「平家物語」の監督をして欲しかったと強く思う素晴らしい演出だった。

「平家とともに海に沈んだまま見つからなかった三種の神器のひとつ、草薙の剣によって、目を切られる」これが歴史好きではない観客にどれだけ伝わるのだろうか。
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