イホウジン

犬王のイホウジンのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.7
野蛮と熱狂

一連の歌の場面が今作のコアであることに間違いはないだろう。当時の技術でもギリギリできそうな演出を用いた現代的な楽曲の数々は、結果的に現代の人々が当時の民衆の熱狂を追体験させることに成功している。エレキやドラムの音など、どう考えても有り得ない楽器の音色も流れているが、それもその一環だと考えると腑に落ちるし、むしろ適切(?)な歴史の修正と言えるだろう。
ストーリーには良くも悪くも勢いがある。中盤がほぼ音楽パートで占められる分、その前には語るべきことを語るし、その後には残すべきものを残す。細かいところが気にならないこともないが、それはミュージカル調の作風で誤魔化されている。絶妙なバランスと言えるだろう。

今作が表現するのは、ちょうどコロナ禍で抑圧された、人々の熱狂の肯定である。舞台と客席で距離を保つのではなく、共に盛り上がり舞台をパフォーマーと一緒に作り上げようとする姿勢が、民衆を犬王のライブへと駆り立てる。それは一見すると野蛮なように見えるが、人間らしさなるものがそちらの側にあるのだとすれば、単なるパフォーマンスが人々に自由を教えているという解釈もまたできるようになるだろう。それ故に終盤の悲劇が待ち受けるのかもしれないが。
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