おいなり

犬王のおいなりのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.7
ジャパニメーションの一大ジャンルとなった歌モノ映画。
海外のミュージカル文化とは違う文脈で歌を題材にした日本の作品の多くは、音楽とストーリーを明確に分断した長編MV的な作品が多い中で、本作の「ライブ感」に振り切ったつくりは、新鮮ではないけどわりに気持ちよかった。舞台演劇ぽさというか、スーパー歌舞伎的な、ストーリーよりはスペクタクルを楽しむ映画。

監督・デザイン・スタッフ・そして声優と、めちゃくちゃアクの強いメンツを集めて、調和どころか殴り合いを繰り広げる90分。
でも個性のぶつかり合いが生むグルーヴ感こそがライブであり、これは統制されたオーケストラに対する、ジャズセッションの感覚に近いなと思った。



室町時代の芸能黎明期に、バリバリのロックやらオペラやら新体操やらバレエやらといった近代芸能をぶち込むという、北野武の座頭市からタップダンスだけ抜き出したような映画。
現代の目からみれば「斬新」と言えるほど目新しい料理ではないけど、この強烈なバンドをボーカルでまとめ上げるアヴちゃんの表現力が素晴らしかった。
芸能人やら歌手やらが客寄せパンダ代わりに声優をやらされるアニメは多いが、本作はアヴちゃんはじめ周りを固める俳優もきっちり「役者」として呼ばれており、特に舞台経験も豊富な森山未來の演技は光ってた。



中盤以降はほとんど歌唱シーンでストーリーが進んでいく構成は、ともすればモチーフとなっている能楽ぽさもあって、ミュージカル文化の薄い日本における歌モノの源流を思わせる……というと言いすぎかも知れないけど、この一気に犬王の成り上がりストーリーが進んでいくテンポ感は非常に良かった。

犬王も友魚もハンディキャップを抱える人間ではあるけど、よくある「ハンデがあるのにこんなに頑張ってて偉い!尊い!」みたいな上から目線の物語にしないのは、逆に良かった。
そういう身体障害の賛美でお涙頂戴みたいなのを無くしていくのが、本当のフラットな物の見方だと僕は思います。



ハマる人とハマらない人がめちゃくちゃ分かれそうな、本当の意味での賛否両論ある映画だけど、個人的にはわりと楽しめた。

ただ、ライブ的な作品であるがゆえ、こっちまで一緒にノって観る必要があって、たとえば自宅のテレビとかスマホの小さな画面で観て、そこまで入り込めるかというと、それは結構観る側の努力も必要になると思う。
「環境に左右される作品」を真に優れたモノと言い切れるかは微妙だが、ライブはリアルタイムの大音響で聞くのが良いのは当たり前であって、映画という舞台上でのコンセプトの限界も感じざるを得なかった。

現実的には難しいだろうけど、定期的に映画館でやってほしい。
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