サトタカ

犬王のサトタカのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
4.0
湯浅監督の「マインドゲーム」は大好きなんだけど、この映画は室町時代だかなのにロック・ミュージカル調と聞いて、映画館には足を運ばなかった。妻と娘は観てきて勧められたのだが…。今頃アマプラで観て、映画館に行けばよかったと後悔した。

わたしは65年生まれなのでリアタイで聴いたのはベイ・シティ・ローラーズからで、気がついたらパンクも終わり、ロックシーンはニューウェイブに突入してしまった。この映画のライブシーンでは、ジミヘン、クイーン、ザ・フー(ガイコツスーツw)、グラム期のデヴィッド・ボウイ、そして舞台・映画のロッキーホラーショーあたりのロックっぽさを感じた。主に70年代かな。初老のわたしも時代を遡って勉強して知ったロック。イギリスで言えばワーキングクラスだったり、吃音だったり、イアン・デューリーみたいに障がいをもった底辺寄りな若者が、ロックで一発当てて大人気になるも音楽産業に組み込まれて、大人たちにいいように使われちゃう栄枯盛衰みが平家の恨みと重なって非常にマッチしていた。

グラムロック的な演劇的な舞台演出はその時代でも可能そうな手法を使っていた(少なくてもそのように見えた)が、演奏に関しては、琵琶や和太鼓、アップライトベース的な謎の琵琶?から出ているとは思えないエレキギターやベース、ドラムスの音色なのは少し残念だった。でもそんなことは瑣末な話で大したことではない。わたしの中では。声優のアブちゃんも森山未來もすごくよかったからね。

成功者、勝者の物語ばかりがありがたがられ、後世に残る世の中。敗者は恨み言を誰にも聞いてももらえず、ただただ悲嘆に暮れ人知れず土に還る。そういう圧倒的多数のルーザーに温かいスポットライトを当て、うんうんと共感しながら話を聞いてやろうじゃないかという犬王。ただ聞いてあげることで、平家の亡霊を成仏させ、醜い異形の体が定型の人間に変化し、そのうえ美しくなっていく。
とてもやさしいストーリーだと思う。

しかしふつうの人間の見てくれに近づいた犬王は、当初のインパクト、ロック感を失っていき、しまいには幕府という強者に傅くようになり、自己破壊的な友有というか友一、友魚と強いコントラストを描くことになる。

考えてみれば友魚の時代は父ちゃん以外には魚くらいしか友がいなくて、犬王と出会うことで友が一人でき友一、一座を構えてスタッフも多くなり友有りということなのかな?彼の名前の変遷は。わからんけど。

「我は友有座の友有!報われぬ者の物語を拾う、我々の物語を消させはせぬ!」
このセリフは、彼の欲望や意地、誇りを凝縮していた。泣けてくる。

稀代のロック詩人、ルー・リードが言いそうなセリフにも思える。共感の得られなそうな例えで恐縮だけど。彼も同性愛者やアルコール、ドラッグで身を持ち崩した人たちの物語を、あたかも自分ごとのように歌っていたからね。
ルー・リードの傑作アルバム「ベルリン」は耳で聴く映画だった。男はベルリンで娼婦に出会う。二人ともジャンキーになってしまい、できた子どもは養育不能と判断されて取り上げられ、彼女は悲しみにくれ自殺する。どんな生き方をしようと最後には死んでいく人生の虚しさ、悲しみを歌っていた。主人公の男は時間を無駄にするのはやめようと決意し、過去と決別することにする。生き残った男は人生のどん底から頭を上げる。

犬王では、運命的にバディとなった二人は600年後の現代にふたたび出会い、再会を喜び合いながら成仏する。過去をなかったことにはしない。ささやかなハッピーエンド。

これはこれでいいね。
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