ひれんじゃく

犬王のひれんじゃくのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.9
冒頭の過去と現在が交錯するような表現でいいぞいいぞとなった。以下ネタバレを含んでいる。


















しかしそこが良かった分、やはり犬王が物語るシーンのバックはギターではなく琵琶を基調とした劇伴がよかったなあ。能楽だって日本古来の芸術なのに、西洋から入ってきたダンスとかライブ演出とか取り入れてしまっていてちょっと波に乗れなかった。題材となっている平家物語自体がそもそも日本の話で、その亡霊たちを成仏させるために物語を拾っているとするのならば日本的な要素で勝負してほしかった。しかしまあ犬王の父親が代々受け継がれてきた技を極めるタイプの表現者だったこと、犬王はそれとは対照的な斬新な表現者であったことを考えるとロックっぽくなるのはわからなくもない。

支配者が権力を集めるために複数ある原典を一つにまとめ直すってどこも同じことやるんだなあと思った。聖書で侃侃諤諤の議論があったのは知ってたけど、平家物語でも同じことがやられてたとは思いもよらなかった。南北朝時代っていう不安定な時代、南北統一(権力)のために抑圧される芸術っていう背景とそれに巻き込まれて存在ごと消されようとしている怨霊たちの無念の声が共鳴して心を打った。そこのリンクというか流れはとても良かったと思う。

友有自体が実はこの世に未練を残した亡霊と化してしまっており、冒頭で「失われた物語を語ろう」とこちら側の観客に語りかけたことでこの映画自体が犬王たちのいう「拾わねばならぬ物語」となっている構造が面白い。俺の話を聞いてくれという。歴史の闇に埋もれてしまったけれど俺たちがここに有ったことを忘れないでくれという。全て話し終えた後友有は犬王と共に成仏できたわけだし。こうやって作品の一部として観客を取り込むのが面白いと思った。今気づいたけど最後迎えにきたってことを考えるとなんだかんだ犬王も未練たらたらで成仏できてなかったんだなあ。友一が無念の死を遂げたことがやっぱり引っかかっていたんだろうか。歌声はさすがというか圧巻だった。ライブの表現だけが合わずかなしい。
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