骨折り損

ドリームプランの骨折り損のレビュー・感想・評価

ドリームプラン(2021年製作の映画)
3.8
このお父さん、調べたらマジで怖いな。

正直、映画を観終わった時点ではなんだかんだ癖強いけどいいお父さんみたいな印象が強かったが、気になってこのお父さんが実際どんな人だったか調べたら出るわ出るわ恐怖のエピソードたち。

まぁもちろん実際もどんな人だったかは、記事も盛っているだろうし真実ではないにしても、この映画でお父さんが虐待の疑いで通報された理由も腑に落ちてしまう。

とはいえ、お父さん視点に立つと確かに熱くなる映画ではあるんだよなぁ。そこがまた難しい気持ちにさせてくる。お父さんの独断で娘たちが翻弄される様子も、決して肯定はできなくても、お父さんの差別された過去からの並々ならぬ思いを知ると、完全な悪人にはできない。とても複雑な思いを抱えながら見る作品だった。

夢を見るのは大事!とかそんな簡単なメッセージではなく、割とお父さんの嫌なところも見せるからこその、努力を強いることの難しさみたいな正解のない問いをもらった気分だ。これは意外と、いい気持ちになる映画ではない。それは僕の中では嬉しい誤算だった。

高校時代テニス部の遠征の度に他校の生徒にアジア人ヘイトを食らっていた俺には、白人に混じってテニスするシーンだけでもう胸が痛かった。だからこそ、お父さんに感情移入し過ぎてしまったのだろう。子どものことを考えたら、正しいとは言い難い彼のやり方に、こと「差別に対する復讐」が介入すると、自分も彼を否定できずにいた。

差別は人を動かす動機として、やはりその人の行いを強く正当化してしまう危うさがある。真にこのお父さんが差別に対する復讐を果たす時は、娘たちがグランドスラムを取った時じゃない。それは痛みを赦す時だ。赦せる人間になった時、自分を傷つけた人間のことなど、どうでも良くなるだろう。もちろんそんなこと分かっていてもなかなかできないけれど。

このお父さんの姿を見て、反面教師にしつつ、自分もいつか痛みを赦せるようになりたいと心から思った。
骨折り損

骨折り損