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ドリームプランのsomaddesignのレビュー・感想・評価

ドリームプラン(2021年製作の映画)
5.0
アメリカン・ドリームの光と影
親がしんどい映画の新風

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ウィル・スミスが主演・製作を務め、世界最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界チャンピオンに育てあげたテニス未経験の父親の実話を基に描いたドラマ。

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とても面白い現代のシンデレラストーリーだけど、ある種の毒親厄介物語でもある。それでもプロデューサーにビーナス&セリーナ姉妹が名を連ねてるだけあって、だいぶリチャードに寄り添った内容。世間から見ればトンチキな父親かもしれないけど、彼女たちの成功の陰には父親の粉骨砕身があって感謝してるってことなんだろう。

リチャードの教育論が独特すぎ、クセ強。テニスが強くなることだけが目的じゃなくて、目の前のうまい話に飛びつかない。自分達がありたい姿、行きたい目標が明確で安直な道に揺れ動かない…のはいいとして、家族の選択や人間性を全く顧みない。インタビュアーに対しても、子供の盾として間に入るってより、自分にとって都合の悪いことは話させない。自分のプランから外れた行動を許さない強すぎる父権に狂気を感じた。

テニスをモデルケースとして、大人が子供を支配的に消費する風潮へ疑問を投げかける作りになってて、誰がなんのためにそのスパルタ教育を良としているのか問うてくる。(そのせいでリチャードの横暴が「まだマシ」っぽく見えちゃってる気もする)

姉妹をはじめご家族が納得しているとはいえ、実質的虐待親に見えちゃう瞬間も。貧しい暮らしから抜け出る(自分と同じ目に遭わせたくない)、子供たち自身の成長なのはわかるけど、少なからずリチャード自身の自己実現の為に娘たちを利用してる側面を隠さない。ある意味正直で誠実な作りとも言えるけど、毎日習い事や学習塾に通わされた世代からするとトラウマが蘇ってきちゃって辛い。

リチャードさんの複雑な出自や、若い頃の差別体験が影響してるのか、強烈な家父長制。1942年ルイジアナ州シュリーブポート生まれ。かつての奴隷市場の街としても知られ、KKKが蔓延る時代に人種差別激しい地域で生まれ育つ。努力し成功したとしても、黒人であるがゆえに抑圧され侮辱される。自身の存在を徹底的に小さく無価値な存在として虐げられてきた少年時代。4人の妹の長男として一家の責任を負う自覚も相まって、より早くこの状況から抜け出すことを決意してたのかも。

原題「King Richard」はシェイクスピアの「リチャード三世」になぞらえたものかしら? 足を引きずって歩く姿や、巧みな話術や戦略でのしあがってく姿が重なるし、他人を自分都合で利用したり操る傍若無人っぷりも似てる。成り上がりの裏にある悲劇を暗示してるような。

セリーナは「私たちの父は違った。世間は間違った見方をしていたでしょうけど。私たちは、テニスコートでは何も無理強いされずに育った。この映画でそれを知ってもらえるんじゃないか」と語っている。

感動的なサクセスストーリーの一方、薄皮一枚のすぐ裏に悲劇が隠れてる。
最初の奥さんとの間に生まれた5人の子供のことはほぼスルーだし、実際棄てられた5人のうち長女は相当な不快感を示している。

結局オラシーンとは2002年に離婚し、2009年に37歳年下のレキーシャ・グラハムさんと出会い、婚約。翌年三度目の結婚をして、2012年に息子ディランを授かっている。セリーナと30歳差の弟ってすげえな。姉妹は息子ほど歳を離れた弟を溺愛、レキーシャとも友達のような関係を保っているそうだけど、再再婚の妻ともども父親とは距離を置いているそうな。

ウィル・スミスがリチャードを生写したような怪演が素晴らしく、セリーナ&ヴィーナス姉妹ら家族も絶賛。熱血親父とも妄言爺とも違う、熱意と狂気と慈愛が絡み合った複雑なキャラクターを作り上げてみせた。

妻オラシーンを演じたアーンジャニュー・エリス。暴走しがちなリチャードを諌め、子供たちの支えとなった彼女の存在が今作の救い。「あなた一人で出来たことだと思ってるの?」言葉でリチャードをビンタするような演技は、今作がリチャードの自己実現の物語でも、ウィリアムズ姉妹の成功譚でもなく、家族が結束して困難を乗り越える冒険の物語でもあることを気づかせてくれた。

個人的に面白かったのはコーチ:リック・メイシーを演じたジョン・バーンサル。普段のムキムキマッチョな肉体美を控えて、愛をもって姉妹をしごく名コーチっぷりが最高。リチャードに振り回されて、何度も困り顔&イライラ顔させられるのが面白かった。


15本目
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