荊冠

生きるの荊冠のレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
5.0
小田切が工場で作るウサギの玩具を見て渡辺が「まだできることがある」とレストランの階段を駆け下りるシーン。背後で生命力にあふれた若い生徒たちがハッピーバースデーの歌を歌っている中、死にせかされる老人が階段を降り、生命力にあふれた若者が階段を上ってくるという構図になっており、これは大きな皮肉だなァしかし上手いなァと思ったのだが、次の渡辺が役所に復帰し暗渠計画に乗り出すという翌日のシーンでハッピーバースデーのBGMが流れた瞬間、あの演出は死にゆく老人への皮肉ではなく渡辺が生まれ変わった、つまり新しい人間として生まれ直したという演出だったのがと気が付き鳥肌が立った。
また映画半ばで渡辺が死んでしまうのでびっくりしたが、それは彼が成した偉業を死んだ後に残された者たちの口で語らせるという構図にするためだったのがすごい。死人に口なしとも思うし、葬儀の場で騒ぐ彼らの姿を見せることで生きている間にどう生きるのかという秀逸な提起にもなっている。
天才というほかない。
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