りえぞう

生きるのりえぞうのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
4.5
市民課長の渡辺勘治は、“ミイラ”のあだ名の如く、役所でも無気力な生活を続けていた。ところが自分が胃がんであることに気づき、死を目前にして初めて自分のこれまでの人生に疑問を抱き始める。

自分が何をしたらいいのか、何をしたいのかが分からない渡辺は、30年間無欠勤だった役所を無断欠勤して遊び回ってみる。時代を感じるストリップ劇場にスケート場、ダンスホールは大勢の人で、まるでモッシュ状態。当時の夜の歓楽街を垣間見れて、昔はこんなんだったのかなぁ?と興味深くも思ったが、もちろん渡辺の気持ちがこれで晴れるわけもない。

渡辺が奮起するきっかけとなったのが、退屈な役所に嫌気がさして、おもちゃ工場に転職した元部下の女性とのやりとり。その彼女との別れ際に流れるハッピーバースデーの合唱が、彼の再生とシンクロしていて、上手い演出。

今まで軽視していた課題に市民課で取り組もうと動き出し、ここから活気ある展開になるかと思いきや、場面は一転して、いきなり渡辺のお葬式に変わった時には驚きでした。しかし式場でそれぞれの役所の重役や同僚が、これまでの渡辺の業績を語り合いながら回想していく展開は、渡辺の最期の生き様とともに役所の問題点が露わとなる、これも良い演出だと思いました。

いのち短し 恋せよ乙女…
小雪の舞う夜、完成したばかりの公園のブランコに揺られながら、『ゴンドラの唄』を歌うシーンは心に残ります。

生命を使うこと…自分の使命を今置かれた環境でやり遂げた渡辺。

「置かれたところで咲きなさい」

この言葉を思い出しました。
仕事も家庭も「こんなはずじゃなかった」と思うことはいっぱいあるけど、その状況の中で咲くこと。
どうしても咲けない時は、その代わりに根を下へ下へと降ろせばいい。次に咲く花がより強く美しくなるために。

与えられている自分の役目を全うする。
それが出来るか出来ないかではなく、やるかやらないかであることを教えてくれる、素晴らしい映画でした。
りえぞう

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