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生きるのjteaのネタバレレビュー・内容・結末

生きる(1952年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

市役所の市民課長渡辺は遅れず休まず働かずのおきまりの役所で30年。そんなとき病気であとわずかの命とわかると。職場や家族に病気のことをなかなか言い出せない、残された時間を思うと整理がつかない心。はじめは葛藤との闘いですが、飲み屋で出会う小説家や女子職員との交流で生きる意味の問を考えるきっかけに。開き直ると怖いもの知らず、憎んでいる暇もない、と。ハッピーバースデーの歌声とともに生まれ変わったかのように動きだす主人公渡辺。次に映るのは、いきなりお葬式のシーンでした。入れ代わり立ち代わり登場する人々の話から渡辺の様子がわかってきます。


飲み屋で出会う小説家とヤケクソ半ばで街を歩く。ピアノ弾きにリクエストし歌うゴンドラの唄「いのち短し恋せよ乙女〜♪」渡辺のうるんだ大きな瞳が周りの人たちにどう映ったのかはわかりませんが…。戦後数年しかたっていないのに街の風景が華やかで、ダンスホールに隙間がないほど男女があふれていたり。帽子を女に盗られたり、タクシーの中でのやりとりに、カフェでの珈琲とケーキ。鍋を囲む姿にお汁粉をほおばる女子職員の姿。ひとつひとつ玉を入れて打つパチンコを楽しむ姿。最高な昭和の魅力を見せてもらいました。
女子職員の職場での観察力も。あだ名をつけるのがうまく、その人のなりが頭に浮かんできます。主人公渡辺の話す姿に、雨だれみたいにポツンポツンとしゃべらないでといらだつも、自分の意見をしっかりと伝える小田切とよ。状況がわかりやすいたとえが今でも通用するような会話に見入ってしまいました。

渡辺の働きを見習って、役所の休まず働かずのイメージを払おうと意気込む職員たち。熱意が伝わらなければ世のなか闇、人間のクズだ。と言いつつ、意気込んだものの、人はそんなに変わることはできない姿に苦笑い。
手柄を横取りする人間にゲンナリするものの主人公のことを思うたくさんの人がいるのも事実。警官が見たブランコに乗り「ゴンドラの唄」を歌う姿にはやり遂げた清々しさが映っていたのでしょう。公園で子供たちの遊ぶ姿に渡辺の生きた証が見えました。感動。
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