サマセット7

EXITのサマセット7のレビュー・感想・評価

EXIT(2019年製作の映画)
4.3
監督・脚本は今作が長編映画監督デビューとなるイ・サングン。
主演は「建築学概論」「観想師」のチョ・ゾンソクと、女性アイドルグループ「少女時代」のイム・ユナ。

[あらすじ]
大学時代、ボルダリングに勤しんだヨンナム(チョ・ゾンソク)は、現在20代後半になるも無職。
親戚一同に哀れみの目で見られ、居た堪れない毎日を過ごしていた。
ある日、母親の古稀祝いで親戚が集まり、式場を借り切ったパーティー会場で、ヨンナムは学生時代に告って振られたボルダリングの後輩、ウィジェと再会する。
式場の副店長として輝いて見える彼女に、自分が無職であると告げられないヨンナム。
そんな時、街で毒ガスを用いたテロが発生。
致死性のガスは街を覆い、ヨンナムら家族とウィジェは、ビルに閉じ込められてしまう。
下階からガスが押し寄せ、屋上のドアは閉まっている!!絶体絶命のピンチで、ヨンナムはある決断を下す…。

[情報]
2019年の韓国映画。
韓国で942万人を動員するヒットとなった作品。
あのパラサイトで1028万人と考えると、なかなかの数字である。
2019年の韓国の人口は5100万人強なので、人口比の動員率は6人に1人と、相当高い。

ジャンルはサバイバル・パニック、ディザスター・スリラー、ファミリー・コメディ、ロマンス・コメディのミックス、という感じか。
いわゆる人生の落伍者が奮起する話である。

監督のイ・サングンは特段のキャリアの情報もないが、今作の脚本を引っ提げて監督デビュー。
いきなりのヒットで将来を嘱望される監督であることは間違いなさそうだ。

韓国国内でいくつか賞を獲っており、評論家の評価も悪くないように見える。
一般観客からは熱い支持を集めたようである。

主人公とヒロインのボルダリング経験がアクションに活かされる点、韓国のベタベタな家族ドラマがユーモアたっぷりに描写される点、ドローンが効果的に使用される点に特徴があるか。

今作の災害は毒ガス・テロだが、潔くテロリスト関係の描写は最低限に絞り、主人公とヒロインの悪戦苦闘ぶりに焦点を当てている。

[見どころ]
あの手この手で楽しませてくれる、アクションとピンチの豊富なアイデア!
そのハラハラドキドキ感!!
共感せずにいられない、等身大すぎる主人公!
弱いのに振り絞る、なけなしの勇気!!!
ユーモアに包まれた、ガチな感動!!

[感想]
なんだろうか。
今作を好きと言うことには、一抹の気恥ずかしさがあるのだが。

はっきり言おう。好きです!!!!!
これぞエンタメ映画。
オススメ!!!
全く肩に力を入れず、103分で観れるのもイイ!

まずはクリフハンガー的な高所アクションとして、非常に楽しめる。
特に前半のビル登攀。スリル!!スリル!!!
主人公を見つめる親戚一同の大騒ぎも込みで引き込まれる。
棒を引っ掛けたジャンプ!!
命綱!!
焼肉!!!
チョ・ゾンソクの、肉体の躍動!!

にしても、この感動はなんだろうな。
無職で、筋肉だけ鍛えちゃった主人公に、最初の20分間でどっぷり感情移入してしまったからか。
毅然としてヘリを見送ったヒロインが、「私も乗りたかったー」と言いながら号泣する姿が、いじらし過ぎたからか。

チョ・ゾンソクの醸し出す、絶妙なイタさがいい味を出している。
イケメンなんだが、残念、というバランス。

不勉強で、韓国のアイドルグループ少女時代は名前くらいしか知らなかったが、今作映画主演デビューのユナもとてもよかった。
体を張ったアクションも、シリアスもコメディもこなし、何しろ可愛い。

今作の最大の魅力は、登場人物の等身大の描写が満載されていることかもしれない。
ソンナムも、ウィジェも、弱音を吐くし、泣くし、なんなら地団駄を踏む。
それでも、勇気を出して、他人のために頑張る!というところが感動を呼ぶ、のかもしれない。
ビルの屋上!
学習塾!!
疾走の後の絶望的状況!!!

クライマックスの展開は、現代的。
そして感動的。
ラストも爽やかに締める。
満足!!

家族ドラマで見える儒教的やりとりが、コメディとしてはいいが、感動シーンとしてはさすがにくどい、とか。
終盤、横移動のアクションがさすがに単調、とか。
主人公、その行動力でなぜ無職、とか。
粗いところも散見されるが、そんなことはどうでも良くなる勢いが、今作にはある。

[テーマ考]
今作のテーマは、エンドロールで流れる主題歌「スーパーヒーロー」にある。
ヒーローとは何か?
それは、普段はカッコ悪くても、いざという時に、他者のために、勇気を持って行動できる者。
それが、1番カッコいい。
主人公ヨンナムの姿は、まさしく、それだ。

[まとめ]
イ・サングン監督デビュー作にして、韓国産サバイバル・パニック・アクション・コメディの秀作。
今作で、ベタなジャンルムービーの楽しさを再発見できたような気がする。
「ベタ」には理由があるのだ。