【木下惠介特集① 75回目の夏】
終戦の日に木下惠介監督の『陸軍』を観る。
戦時中に陸軍省の後援を受けた戦意高揚映画であるものの、ラスト10分でがらっと様相が変わることで有名な作品。
幕末から満州・上海事変にかけて、九州に住む愛国心あふれる家族の姿を描いている。
それまでは笠智衆演ずる父親が主人公で、DVDのジャケット等に大写しの田中絹代は脇役だったのだが、息子の出征する姿を一目見ようと駆け出して以降は完全に主役が変わる。
やっぱり木下惠介作品において、母親は偉大な存在であるというのを改めて感じた。
映画研究家の春日太一さんが指摘していた出征の日に家で思わず大きく深呼吸して肩をほぐすシーン。
実際に劇中で描かれなかった育児の大変さについて、その労苦から解放された瞬間だけを描くことで表現しているのも良い。
あと笠智衆が口論した相手・東野英治郎と仲直りする場面も、東野が自身の母親にうちわで扇いでいるのを見たのがきっかけというのも木下作品らしい。
戦意高揚映画のていなので、劇中「神風が吹かなきゃ元寇で日本が勝つことはなかった」の発言とか出征した息子の安否ばかり心配している東野英治郎が笠智衆や上原謙から叱られっぱなしなのだが、現代の目で見れば当然、東野英治郎の言い分の方が正しい。
主人公たちに否定させることで軍部や内務省からの批判をかわそうとしているが、東野の言い分はおそらく木下惠介が伝えたかったことだと思う。
ただそれでも本作が問題視されて、木下監督は終戦まで映画製作できなかったみたいだけど。
さて、これを機に、今度はしばらく木下監督作品を立て続けに観ようと思う。
■映画 DATA==========================
監督:木下惠介
脚本:池田忠雄
製作:安田健一郎
撮影:武富善男
公開:1944年12月7日 (日)