きゃんちょめ

ソウルフル・ワールドのきゃんちょめのレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
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【きらめきは目的のことではない】

この映画の原題はソウル。この映画で一番面白かったのは、「偉人は複雑なことを考えていて凡人は単純なことを考えている」という常識的な構図を否定して、「偉人は人生に目的がなければいけないと思っていて単純だ」というセリフがあるところだと思う。

この映画が始まってから1時間11分53秒目くらいのところで、「we don't assign purposes. Where did you get that idea? A spark isn't a soul's purpose. 私たちは目的を割り振っているわけではない。いったいどこからそんな考えがやってきたんだい?人生のきらめきは別に目的のことじゃないよ。」というセリフがあるし、1時間12分07秒目くらいのところの字幕版では「メンターは皆同じだ。目的だの生きる意味だのと単純だ。」というセリフがある。

考えてみれば、床屋のデズは実は獣医になりたかったと吐露し、だとすれば結局その目的は叶わなかったわけだが、だからといって人生が生きるに値しないかといったらそんなことは全然なく、幸福そうだった。

「そりゃ、輸血の発明者もいるが、(床屋をやっていると)こんな面白いやつに出会えるし、その人を幸せにして、イケメンにできる。輸血は発明していないけど、こうして人を救っているんだ。」とデズは言っていた。

海の中で大海を探している魚の逸話を聞かせるドロシアもデズと同じことに気づいていた。

コニーも「何の役にたつかわからないし時間の無駄だからトロンボーンをやめる」と言っているが、しかしやってみると楽しいから続けてしまう。

さらにこの映画が素晴らしいのは次の点である。過去作の『リメンバーミー』という人間が肉体上の死と記憶上の死という二段階に死ぬ映画では、「アドルフ・ヒトラーは永遠の命を得てしまうのか問題」が発生していたが、この映画ではむしろ、死は現生の終わりであり、死の直前には次の世代にスパークを教えるステージがあり、そしてそのスパークは決して偉人だけが教えられるようなものではないのだという結論になっていた。

『リメンバーミー』ではいつまで経っても死者達は記憶されている限り現生に残り続けるのに対して、今作では死ぬことによって完全に現世を超越する(≒ふつうの言葉で言えばむしろ単に「消滅する」と言い換えても不都合はないような仕方で超越する)ことになっていた。こちらの作品の方が私にはバランスがいいように思われる。そして死んで現世を離れる前に、これから生まれてくる子どもたちに人生の楽しさを伝えられるのである。本当にかわいい世界観であった。
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