多湖

ソウルフル・ワールドの多湖のレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
5.0
■ 実はこの映画をみたのは二度目だ。最初の鑑賞は配信された当時で、だからかなり前ではある。けれど、それでも劇伴の良さ、そして画面いっぱいに映った銀杏のこがね色が美しかったこと…その二つが私の記憶の中に鮮明に残っていた。
映画館でみられたらどんなに素敵なことか。これは私にとってそう感じていた映画で、そしてついにその作品が来週から映画館で上映される。

■ すごく簡単にあらすじを書くと、「人(=ジョー。主人公の音楽教師)」と「人として産まれる前のたましい(=22番。人として産まれる前段階でつまずいているたましい)」との交流…というか。ジョーはひょんな流れで22番のメンターになる。その目的は22番が人として産まれることが叶う状態に持っていくことで、これはその間の二人の交流を描いた話。
その中で22番は人としての生を疑似体験するんだけど、そこで彼女が惹かれたものは本当に小さく、けれど確かに存在している豊かさばかりだった。ピザが美味しかった、たまたま出会ったストリートミュージシャンの歌に胸を打たれた、鉄柵に指を滑らせたら音楽のように鳴った、そして、銀杏のこがね色が見とれてしまうほどに美しかった。

■ この映画をみるときって、なにか肩の荷がふっと下りるような感覚さえある。
どうしても、毎日を必要な仕事に追われて過ごし、それに慣れてもしまう日々がある。…けれど、そうしたときも空は目の覚めるように青く、季節の移ろいに伴って植物は芽吹く。不意に耳にした歌や演奏に心が動いたり、知っていると思っていた人の知らない一面をふとした会話から知っておどろく…とか。
そこに静かに存在している豊かさを見つける・気づく、それをたのしむ22番の表情…というか反応の描写も、すごく丁寧で大好きなところの一つだ。あぁ、すごく心を動かされているんだな…それが明らかで、みている私も嬉しくなる。

■ 22番は数々の偉人にメンターをしてもらっている、という過去がある。しかしそれでも、人として産まれることが叶う状態には至らなかった。
鑑賞後、物語全体を振り返ることができる状態になってから、この22番の背景について考えていた。その結果、この話って地味にすごい話をしている…気がした。
突出した才がある、それは素晴らしいことだけど、それが全てでは決して「無い」。この映画が描いた価値って愛と呼べるものだと思ったし、人間に対する慈しみを感じる気がする。でも、だから私はこの映画がすごく好きだと思った。いつか絶対またみます。

(上映会でみることができてとても嬉しかった、ありがとうございました…ᥫᩣ ̖́-)
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