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ソウルフル・ワールドのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
4.1
 当時今作を観て、相当攻めた脚本とビジュアルだと思ったのだが、再見してもやはり素晴らしい。今のディズニーやピクサーがどう頑張っても作れない感触が今作にはある。それは夢寸前のところでいつも挫折を経験する主人公の音楽教師ジョーに負う部分も大きい。類まれなるジャズへの情熱を持ちながら、それで食っていくにはどう考えても厳しい現状。糊口を凌ぐために若い生徒たちに音楽を教える現状はあるが、彼は少しも夢を諦めていない。現代のニーナ・シモンかビリー・ホリデイとも呼ぶべきドロシア・ウィリアムズの女王のアイデンティティも劇映画顔負けだ。だがジョーが幸福の絶頂から奈落の底に突き落とされるマンホールの描写がまた素晴らしい。あの世とこの世の境目を織り成すあの世界のビジュアルは譜面やピアノの鍵盤を参考にしているに違いない。あの世界が本当にホラーで、成仏できない御霊同様に自分の6つのエレメントをあらかじめ決めることが出来ない魂は、地球に生まれることが出来ないのだ。22番はこのソウルを探すことが出来ず、さいはての世界に何百年も留まっている。いや彼女自身は地球上の偉人たちと何度もすれ違っているのだけど、決定的な何かを掴み切れずにいる。

 そんな22番にとって実は一番凡庸なジョー・ガードナーの人生こそが生きるヒントをくれる。凡庸な男の凡庸な人生は、ひたすら凡庸で退屈だ。22番が暗に示したジョーが好きな人の存在は最期まで棚上げにされ、彼の背景に色を加えない。初めてブルックリンで食べたニューヨーク・ピザの美味しさ。彼に楽器を辞める前に一度吹いてみようと決断する少女のブロー。それらがソウルの魂を震わせ、次第に彼女はこの世界に生まれ落ちる覚悟を決めて行く。トレント・レズナーのスコアは流石にJAZZ畑からすればやや門外漢にも感じられるものの、バーバーショップで流れるA TRIBE CALLED QUESTの『Jazz (We've Got)』やerykah baduの『On&On』の使い方も絶妙に巧い。アメリカ版でジェイミー・フォックスが演じた役が浜野謙太で、ティナ・フェイが川栄李奈という制約はあるものの、吹き替え版でも感動が押し寄せた。劇場公開予定でポスターまで貼られながらも、コロナ禍でダメになった映画といえば今作と『ムーラン』があるが、今作がもしも当時劇場で公開していればと思わずにはいられない。1300円というディスカウント料金で、『夢追いウサギ』と共に公開されているので、気になる方はぜひ足を運んで頂きたい。
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