阪本嘉一好子

海に浮かぶ小瓶の阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

海に浮かぶ小瓶(2010年製作の映画)
5.0
ある監督がパレスチナの映画は政治問題抜きにしては語れないと言ったが、この映画もまさにその通り『ガザ紛争』(日本語でガザ紛争というが、イスラエル軍の一般市民への無差別攻撃と見受けられる。)の時代の映画であり、個と個の繋がりは社会を変える原動力になることを暗示していると思う。
ガザ地区に住む青年ナイム(Mahmud Shalaby、ーNAIM)MWR - Palestinian Hip Hop)とエルサレムに住む(フランスのパリの南東クレテイユ(Créteil)から移住してきた(シオニズムで)ユダヤ人の家族)高校生タル(TAL)との純愛物語だ.
時は2007年と最初、字幕で表示されているが、ガザに住むパレスチナ、ハマースHAMASが力を増してイスラエル軍と内戦がまた始まる。独断と偏見でモノを言うが、はっきりいってシオニスト政府がガザを爆撃しているとしか思えないし、また、パレスチナがエルサレムを自爆している。

インターネットで 友達になった二人は近況を話し合うことでお互いの友情が深まっていくが、それとは反対に ユダヤとパレスチナの関係が悪化してきて、『二人の友情の方が民族間の争いより絆が強いと思っていたが』、この二人の関係にも亀裂が入ってくる。穏健派(?)前首相ラビンが暗殺されて2018年で、13年になったので、盛大な式典がエルサレムにある。それに、タルは友達と参加し、ラビンの功績を映画で顧みる。ガザではHAMASというスニン派の原理主義者の軍が力を増してきて、ガザの北部はHAMASの武器輸入の拠点となり、イスラエル軍はガザを再び空爆し始める。

『我々はこんなようにお互いを批判しあって(傷つけあって)住むの? 多分?』

この二人のメールのみの会話が、ユダヤ、パレスチナ人の戦いに疑問を投げかけている。その後、イスラエル軍のガザ地区への休戦(?)が二人の心に(もちろん全市民)一時的平和をもたらす。

この中で、二人の友情を育んでいって、最後はパリで会おうと。泣いた!!好きなシーンはナイムがガザからイスラエル側に抜ける北にあるErezという検問所を通っていくシーン。ナイムはフランスのアテネフランセ(?)からの奨学金を勝ち取りフランスへ留学する機会をつかむ。ガザに住むパレスチナ人にとってガザ地区からでることは皆無に近いからこれはラッキーだった。

それから、車で一切停止してはいけないと言われ、それから、ヨルダンに入って、そこからパリに飛行機で飛ぶことになるが(ユダヤ人も同じくアラブ圏の領域を飛ぶことはできないからヨーロッパ方面に一度出て、アジアに行ったりする)、それをメールで知ったタルは検問所まで友達の車で会いに駆けつけるが、ナイムの車は止まれないから、お互いにずーっと見つめ合うだけ。

このシーンに、二人の交換するEメールが交互に流れる。このメールの内容がいい!

タルは自分の気持ちを親友に伝え、軍隊にいる兄(数多くを語らず妹をサポーツし続けるこの兄の役はがいい)もタルの気持ちを察する。また、ナイムも母親(ヒアム・アッバス、この女優はアラブ、イスラエルの映画によく出ていて、特にお母さん役が上手)
だけにフランスへの奨学金の話をするし、ベストであるいとこもナイムの気持ちを察する。この二人は家族や親友に助けられたりまもられたりしてここまでこぎつける。二人のために協力している人たちも、ユダヤ、パレスチナ人の戦いにきっと疑問を持っているし二人の感情を理解できるからから、反対せず協力できるのだと思った。こういう協力者もユダヤ、パレスチナ人の関係を良い方向に変える力になる。

最後のメールの内容は 『二人のこれからは簡単にいかない。でも、うまくいく可能性はある。』ナイムがタルに『あなたはそのままでいて変わらないでほしい。変わるべきなのは他の人たちだから。もしこれが神(アラー)の御心なら』と。うまく言えないが監督の演出が上手!

この意味は私の解釈だと、タルが最初、なぜ、イスラエルのカフェを自爆されたかというパレスチナに対する疑問から始まった。それに、『パレスチナ』がなんだかも知らなかった。この疑問を特にはイスラエルの見解だけを聞いていては一方通行の見解で、なぜの答えを得ることはできない。彼女は自分の疑問を瓶に入れてガザの海に流してもらったから、答えを得ることができた。この行動がユダヤであるタルとパレスチナ人であるナイムを結びつけた。家族や友達の協力者も含めて。この彼女の行動や協力者の助けはタルの言う『そのままでいて変わらないでほしい』という行動である。この行動はこの二人のユダヤ人とパレスチナ人の人の心を結びつけ、距離を縮めいくから素晴らしい。それに、彼女のナイムにたいする気持ちも『変わらないで』という二重の意味が含まれる。変わらなきゃいけない人は政府や軍隊や憎み合っている市民だということ。Inshallah! Inshallah!

ブロックされない限り二人のメールでの結びつきは強い。外見、人種、より何を考えているかの平和思想によって二人は繋がれているし、問題点があっても、その解決策を生み出そうとするに違いない。