ふじこ

向かいの窓のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

向かいの窓(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

誰かから見たわたしたち。

ある日道路を挟んで向こう側の建物に引っ越してきた若い夫婦。
毎日パーティやセックス三昧で、カーテンを引いていないために毎日丸見えになっている。
カーテンがないのはお互い様だけれど、どうしてこっちが遠慮しなきゃ…と言いつつも電気を消して夫と眺める。

少し月日が流れて3人目の子供も生まれ、幼子3人の世話に追われる中で呑気な夫にイライラが募る。
自分は4時間しか寝てない上に、子供3人連れた動物園で大変な目に遭ったのに"君たちが遊んでいる間ぼくは~"と。それ一番言っちゃいけないやつだろ、と子供がいなくても分かる。
疲れた妻は夫にうんざりし、夫もまたお隣さんを覗いていた事を咎められて俺だって戻れるなら20代に戻りたいなどと。少し言い合いになったりもするけれど、ため息をついて抱き締め合うことで関係は続く。

それからも、子供たちが汚した汚いテーブルの上で子供をあやしながらシリアルを食べたり、夜中に赤ちゃんの授乳をしながら度々お隣さんの生活を覗き見る。
ある日夜中に目が覚めてベランダに出ると、お隣さんは深刻そうな表情で抱き合ったりしている。
春には久し振りに現れたお向いの夫が髪を剃って具合が悪そうな様子。

秋になって夫が子供たちを連れ出してくれた久し振りの休暇、お向かいさんの家では髪のなくなった夫がベッドに横たわり、恐らく彼の家族が会いに来ている。
彼らが去った後、そっと夫に寄り添ってベッドに入る妻を、なんとも言えない表情で眺める。

お風呂から上がって再びお隣さんを覗くと、夫が2人の男に遺体袋に入れられて搬送されるところだった。
それを見て思わず外に飛び出した妻は、搬送されていく夫を泣きながら見つめるお向いの妻に声を掛ける。
すぐにこちらに気付くお向いの妻に、思わず知らない振りをする。
すると、小さな子供達がいるでしょ?3人共本当にかわいくて面白い
わたしの夫は重い病気にかかっていたの わたし達は窓越しにあなたの子供達を見てた
そして言葉に詰まって泣くお向いの妻を強く抱き締める。

家の中。帰ってきて早々騒がしくなる我が家と、夫の 君の休日はどうだった?と言う言葉を聞きながら また窓の外を眺めて終わり。


最後の最後、くたびれるばかりだった日常が戻ってきて暖かな電気の点いた家が映る辺りでなんでか知らんがグッと来てしまった。
毎日毎日子供の世話で忙しいし年は取るし部屋は汚いし時々夫は無神経だしで疲れた毎日でお向いさんが恨めしく羨む事もあったろうけれど、お向いさんから見たら可愛い子供が3人も居て夫婦共々健康に日々を生きている。
パーティやセックス三昧で享楽的に生きていると思っていたお向いさんも抗えぬ病に倒れて帰らぬ人となるし、お向いさんから覗き見たこちらの窓は彼らが願っても手に入らなかった家庭を映していたって事よね。
隣の芝生は青い、と言うけれど、誰かから見たわたしたちもまた持っていない何かを持っているのかも知れない。

自分を見たことあるだろうか、他人よりも長く。そんな人はなかなかいないんじゃないかと思う。
自分自身の事を、他人を見るよりも長く。自分自身の事を、他人から見られるよりも長く。

とても良かった。
ふじこ

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