シネマスナイパーF

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェストのシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

-
この作品が公開された時のイタリア語のタイトル訳が「かつて、西部があった」だそうです
この完璧なタイトルセンス、日本人も見習ってほしいものである
この物語は「西部劇という物語に存在する時代」の終焉であり、同時にこれぞ西部劇という旨みが我々の脳裏に焼き付けられる画の数々から滲み出ている
もう、完璧じゃないか
クールなカメラワーク、音、音楽の演出、優れた人間描写、全てに感動し、その完成度に泣く

所謂マカロニウエスタンのような痛快さがある映画ではない
先述したように「西部劇という物語に存在する時代」を去りゆくものとして描いておきながら、極端な話、西部劇を今日まで生きながらえさせているとも言えるかもしれない、そんな作品


オープニングから冴え渡る演出
ハーモニカの音で振り返ると、電車が過ぎたその向こうに立つひとりの男…
その男を見つめる三人の男を後ろから捉えたショット
何気ない画といえばそうなのかもしれないが、セリフ無しで溜めに溜めた先についに現れた男を見つめる三人は我々観客でもある
そんな彼らがハーモニカと対峙するその画は、テンガロンハットを被った連中が三人並んでいるという単純だが抜群の外連味を放つもの
余計なセリフは削ぎ落とした脚本、個々に定められたテーマ曲による画面内の力関係の説明、そして決定的な説得力を持つ画の力強さ
このシーンにこの映画の良さが全て詰まっている

謎多き男ハーモニカの静かなる炎、力や武勇伝で幅を利かせているが物語上その性格が非常に重要になるシャイアン、非道だがそれ故の人間味を感じさせるフランク
彼らそれぞれの物語として、そしてジルが西部でひとりの人間として強くなる物語として、何よりもマクベインという男が西部に見ていた未来の成就の物語として、全てにおいて過不足なく語りきっている

それぞれの登場人物に割り当てられたエンニオ・モリコーネによるテーマ曲を元に演技や演出をしながら映画を作っているだけあって、劇伴の支配力も尋常ではない
同じ曲でも、例えばハーモニカの曲は、ハーモニカ自身による演奏からスタートする場合と完全に劇伴として流れるシーンとに分かれていて、それぞれの場合で彼自身の状況、そして場面を支配しているのは誰なのかを説明している
ジルが西部へとやってきた時、そして列車がやってきて男たちの時代が終わるクライマックスに流れるテーマ曲にはモリコーネさんありがとうと言いたい


チャールズ・ブロンソンやヘンリー・フォンダなど大スターたちによる華
映画の持つ美しさ、強さに満ちた、これぞ映画という作品
ビバ!レオーネ