シネマスナイパーF

ガリーボーイのシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

ガリーボーイ(2018年製作の映画)
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ラップにもインドにも疎いが、間違いなくこれは偽物ではなく本物を映していると思う
こういう物言いがそもそも女性監督を下に見ているように捉えられかねないことは重々承知ですが、インドは女性監督もすごいんだなと
今年一番かっこいい映画だった


それなりの服装で大学に通っていて、スマホでインターネットにも繋がっている
それでもスラムはスラム
ちゃんと知らないけど、おそらくこれが今の本当のスラムなんだろう
ちょくちょく引きのカメラでハッとするようなスラムの遠景が映し出される
ムラドとサフィナがよく会っていた橋的なところの下はあんなゴミだらけなんだよな
初めてのレコーディングのシーンで挟み込まれる実際のスラムの人々の顔と風景

一日を食いつなぐしかない!みたいな目に見える貧困というよりは、こう生きるしかないという階級社会に対する怒りが感じられる
使用人の子は使用人であり、身の丈に合わない、宗教的に合わない夢や関係は許されないと
こんなとこで狭苦しく生きているのに、若い力で精一杯生きることすらままならぬのかと
そこで主人公が力を発揮したのがラップでした

もうね、ラップわかんないけど超カッコよかった
ヒップホップは全然聴かないって人でも安心して観て欲しい
アメリカのストリートの若者の強いメッセージであったものを使ってインドのスラムの若者が叫びをあげたっていうその題材を拾い上げてきちんとカッコよく切実なものとして描き切ったからこそ胸が熱くなる
世界中の全ての若者に観てほしい、そういう熱量を感じる作品
とにかくメインキャラクターたちから若さが、活力が溢れ出ている、いや、滲み出ている
喧嘩もするし失敗もする、人間関係で行き止まる
それでも、生い立ち含めた自分の人格で自分の人生を生きるという強い意志がとにかく滲み出ている
金持ちのボンボンの娘だからって何もかも許されているわけじゃないし、その気持ちは同じ若者として痛いほどわかってしまう…あの車内で二人は目も合わせないし会話もしないし、境遇は全くと言っていいほど違うけど、抑圧されることへの怒りと絶望、それに対しての抵抗が詰まった名シーン

父親の言い分もわかるようなバランスもまた素晴らしい
多分父親は父親で同じように育てられ、真面目に努めてきたのかもしれないとも思える
そんな父親が最後に見せる表情で僕は涙を禁じ得なかった
もういいんだと…親父も頑張ったなと…
アイツ普通に嫁殴ったりで最低だけど、彼の過去に想いを馳せたら僕は完全に嫌いにはなれなかった


自己実現が図らずも自分を同じ立場の人々にとってのヒーローにしてしまうという話
これ今映画館で煽り抜きに大ヒット上映中ですよね
ジョーカーですよジョーカー
でも後味は全然違いますよね
ムラドとサフィナが美男美女なのでお前ら普通に幸せでこれ以上何求めんのって思う人がいてもおかしくはないと思う
でもね、これだけは言える
未来ある若者はジョーカーよりもガリーボーイを観ろ
絶対オススメ