富田健裕

グッドライアー 偽りのゲームの富田健裕のレビュー・感想・評価

2.7
英国を代表する名優二人のガチンコ芝居バトル。
文字にするととてつもなくダサいのだけれど、もうこう書くしかない。
あっと驚く展開も、綿密な伏線も、身につまされる様なメッセージ性も、この映画には求めちゃいけない。
主演二人の微に入り細に渡った演技を観に行こう、堪能しよう。
さすれば心の底から楽しめる筈だ。

良い役者の芝居は細かい。
髪の毛一本から足の爪先に至るまで総身で芝居をしているかの様だ。
全身に意識を巡らせつつも口振り身のこなしはとても自然で無理がない。
英国俳優は、お国柄もあってか舞台出身者が多いが、主演二人も然りで、舞台から出て来た俳優はとにかく台詞が明瞭で、感情の表現が滑らか。力むことなく、安易に突飛な表現に走ったりはしない、だけど必要に応じて振り切るべき所ではちゃんと振り切って行く。
だから芝居に嘘が出ない。これは作品作りに於いてとても大事な部分だと感じる。

脚本を読む力が凄まじく高い。
それは、他者の価値観を自分に落とし込む力に長けているということ。
自分の台詞から見える感情、相手の台詞から見える感情を咀嚼して、物語が持つ感情を表出させることが出来る。これは舞台で長い時間同じ本と向き合ってきた役者だからこそ持つことの出来る力だと思っている。
自分の演じる役には頼らない。相手を観察し、リアクションで芝居を紡いで行く。
小道具一つの使い方も同じで、持ち方、見せ方、音の出し方、全てを計算した上で感情に乗せる。PCのエンターキーを叩く音に感情が乗れば、そこに台詞は必要ない。

役者とは、言わば嘘つきのプロ。
嘘を誠にする職人。
観客は毎度騙されていると言っても過言ではない。
だからこそ、偽ることがテーマの本作に於ける二人の芝居はそれだけで観に行く価値はあるはず。
富田健裕

富田健裕