けーすけ

アルプススタンドのはしの方のけーすけのレビュー・感想・評価

4.0
高校野球に出場した母校の応援にしぶしぶ足を運んだ高校生たちの物語。

球場へ応援に来た安田あすはと田宮ひかる。野球のルールがあまりわからないのでアルプススタンドのはしの方で試合を見る事にした。二人とも演劇部員だが、ある出来事がきっかけで少しぎこちない雰囲気になってしまっていた。
そこに元野球部の藤野富士雄がやってきて会話に加わり、二人に野球解説をするのであった。そんな三人を後ろで見つめる宮下恵。成績優秀だが人付き合いが苦手で、成績学年一位の座を吹奏楽部の久住智香に奪われてしまっていた。
交錯する感情、そして進む試合。彼らがアルプススタンドのはしの方で見つけたものとは・・・





2020年公開された映画で見逃していたものがようやく鑑賞できました!

元々は高校演劇の戯曲として作られた作品との事で、会話劇が中心。さらには映画なのにグラウンドや選手を一切映さないという潔さ。
安田と田宮がほぼ野球ルールを知らないという設定を活かし、試合状況や出ている選手との関係性を会話から引っ張りだす見せ方は、やはり舞台のようにも思えました。


安田はそれまで情熱をかけて挑んできた事が「しょうがない」の一言で片づけられてしまい、野球部の試合応援も「強豪校相手に勝てっこない」とハナから諦めていた。

その「しょうがない」の原因ともなってしまった同じ演劇部の田宮は、未だに自分の感情に整理がつけられず悶々としている。

元野球部員の藤野は当初は練習にも打ち込んでいたが、エースの園田にみるみる差をつけられ試合にも出られない状況となり部活を辞めていた。そんな中、人一倍練習をしているが実戦に出られない矢野の事を見下して心のバランスを保っていた。

成績優秀だけど内気で友達がいない宮下は成績学年一位の座を奪われ意気消沈。奪った吹奏楽部で部長をしている久住に対して敵対心を燃やすが、怒りの持って行きどころがわからず悶々…。


そして時折「お前ら声を出して応援しろー!!!」とやってくる新任の厚木先生が暑苦しい。笑



それぞれの心にへばりついた「しょうがない」や「でも」「どうせ」を溶かすのが、まさに目の前で試合をしている選手たち(でも一切映されない)。

負けると思って試合に挑む選手なんかいない、試合に挑むからには勝つしかない、といった選手の気持ちや熱量が徐々にこちら側へも伝わってくるようで、見えない存在なのにいつしか登場人物と一緒に試合を応援しておりました。


高校野球で青春というと、普通は試合に出ている選手にスポットが当たるのでしょうが、観客席の端っこにいるような一人一人も何らかの物語の主人公で、それぞれに悩みや葛藤があって生きているという部分は「映画を観ている我々も同じように主人公なんだよ」と感じさせられました。
こういう青春も経験したかったなあ…。


正直なところ会場が全然甲子園じゃないので、ずっと地方大会と思ってしまっていたのと、真夏の灼熱さを感じなかったのが残念な部分ですが、それを除けば総じて良かったです。

70分ちょいと観やすく、爽やかな気持ちにさせてもらえる映画、おススメです。



2021/01/01(金) TSUTAYA DISCAS単品レンタルにて鑑賞。
[2021-001]
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