YutaAoyagi

アルプススタンドのはしの方のYutaAoyagiのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

「甲子園一回戦の全校応援でスタンドのはしっこに座る演劇部員と元野球部員と成績優秀女子生徒の一幕、という高校演劇の映画化」これだけで刺さる人にはぐさっと刺さっていると思う。そんな刺さっている人は、文化部っぽい会話も刺さってくるし、演劇っぽい会話のキャッチボールもぐさぐさ刺さるのだと思う。演技の初っぽさは、高校生っぽい演劇っぽいものとして、それもまた良しな気分になるのかも。

作品のキーワードとなる「しょうがない」は、はじめは努力した生徒の気を治めるために先生が使った言葉だったはず(この先生はセリフもなく後ろ姿のみ。印象を与えないようにして、言葉だけ浮き彫りにしているように思う)。生徒は「しょうがない」を気を休める処方薬として自分に言い聞かせただろう。「しょうがない」という優しいはずの言葉で包まれた諦念も、自分に言い聞かせるほど硬くなり、相手に伝える言葉としての「しょうがない」は鋭く尖って刺さってしまう。しょうがないことはあるし、起きる。そのときに「しょうがない」という言葉は救いになる。しかし、その事象はそのときの事象であり、場面変われば「しょうがない」ままではいられない。

熱すぎて暑苦しい先生は、(序盤は鬱陶しかっただけなのに)「しょうがない」なんてない!と言う。いつしか壁のようになっていた「しょうがない」は打ち破るものだと導く。しょうがないと諭す大人がいればしょうがないなんてないと背中を押す大人がいる。場面によってどちらも必要な言葉。人生は理不尽なものだと教えることも教師の仕事なのかもしれない。

フィールドも選手も一度も映らないスポーツにまつわる青春映画。それでも臨場感があるし、最後にはスポーツっていいな、高校生っていいなと思わせる。きっと高校スポーツの魅力はスタンドの観客含めそこにあるドラマを想像して限られた時間で輝く高校生たちに魅せられているのだろう。自分が高校サッカー選手権が好きな理由もきっとそうだ。

実際の甲子園球場じゃないことが、その熱気が伝わってこないことなど残念に思えるが、「アルプススタンド」が甲子園球場固有の愛称なので、この戯曲原作に敬意を払うがゆえなのかもとも思う(地区予選という設定変更にはしたくなかった)。

座り位置、立ち位置が生徒の心情変化に合わせて変わっていく。通路挟んでるよと示すように間を生徒カップルが通り抜けたり。最終的に隣同士になったり。画が変わらないのに、飽きずに登場人物の気持ちを追っていける。

様々な全国大会が開催されなかったしょうがない事態の今年に、高校生たちの背中をそっと支える作品になるのかも。
YutaAoyagi

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