静かな鳥

I Am Easy To Find(原題)の静かな鳥のレビュー・感想・評価

I Am Easy To Find(原題)(2019年製作の映画)
4.4
マイク・ミルズによるショートフィルム。ひとりの女性が生を受け、成長し、老いて死を迎える──その生涯を25分弱で描ききる。

幼い頃から老年期までの全てをアリシア・ヴィキャンデルただひとりで(それもナチュラルな姿のまま)演じてしまう試み。本来なら違和感が生じてもおかしくないものだが、これが何ともしっくりくる。アリシアの豊かで繊細な身体性が年齢毎の差異を際立たせていてお見事(特に子供時代)。また、ひとりの役者に託すことで、主人公の女性が「個」としてより色濃く立ち上がってくる感覚がある。

終始シンプルな筆致で綴られる人の一生(流れ続けるThe Nationalの楽曲の浸透力と子守唄のような耳心地の良さ!)。ナレーション代わりに画面下に小さく挿入される字幕の質素さもあって、作品全体に客観性を強く感じる。誰かの人生を物語る、ということ。短い時間の中で何を語り、何を映し、何を省略するか。同じ景色のはずなのに何かが決定的に違う。変化を重ねながらも、その内には繰り返し続けるものがある。反復、そして円環。見送る側から見送られる側へ。

私が知っている感情/知らない感情。知覚と認識。二度と思い出したくないのに、脳が悪戯してるのか度々思い出してしまっては自分を呪いたくなる過去の出来事の数々。あの人を傷つけてしまった後悔。脳裏をよぎる"場所"の記憶。19歳の私には分からないこれからのこと。見たことのない光景、知り得ない安らぎ。誰かの人生を追体験するのに伴う不可思議な肌触り。その人の想いに触れる。誇らしくなったり、情けなくなったり、怯えたり、安心したり。

すっかり忘れてたことをふいに思い出す瞬間がある。頭の中から零れ落ちていく記憶の断片を、つと掬われたような。この作品を観ている最中にもそれが幾度かあった。《自分の愚かさを彼女に自覚させた女の子》という字面に思わずヒヤッとする。

自分のこれまでの人生のとある一点で出会い、されどたちどころに通り過ぎていった数多の人々のこと。私がもう忘れてしまった人。何故か今でも忘れられない人。何となく心の何処かで分かってしまっていること、勝手に確信していること──あの頃はあんなに仲が良かったはずのあの子にも、もう一生会うことは無いんだろうな。

見知らぬ遠い地で、決して自分と交錯することなどなく死にゆく誰かのはずなのに。私は知っている。娘であり、母であり、そして何よりひとりの人間としてそこに居た彼女のことを。確かに知っているという実感。人の数だけ物語は存在するが、それは案外どれも似たようなものばかりなのかもしれない。でも、それでも。

「私は見つけやすいよ」。"見知らぬ誰か"の歌声が聞こえる。彼女は時に"あなた"であり、時に"私"なのだと思う。乱反射のように、「個」は別個である他者と共鳴する瞬間がある。まだ瞼の裏で揺れる彼女の残像。彼女は、あなたは、私は、そこここにいる。
私はここにいるから。私は見つけやすいよ。



"I Am Easy To Find" - A Film by Mike Mills / An Album by The National (日本語字幕版)
https://youtu.be/lMIlEMbv2V8
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