湯っ子

ホドロフスキーのサイコマジックの湯っ子のレビュー・感想・評価

3.8
宗教を利用してお金儲けをしたり人を支配したり抑圧したり、宗教を巡って戦争が起こったりと、その背景には何かと血なまぐさいことがあるけど、それは宗教が人間に及ぼす力の大きさなのだろう。良い方向にも悪い方向にも絶大な力がある。ホドロフスキーのサイコマジック、これはほぼ宗教だと思う。良い方向に向かう宗教。信じること、救うこと、愛することへの純粋な喜びにあふれている。

サイコマジックのセラピーを受ける者は間違いなくホドロフスキー先生の信者なのだろうし、先生はセラピーを受ける人たちのことを真に救いたいと願っている。報酬はアート。そこにあるのは大きな愛だ。

セラピーは受ける者をショック状態に陥らせ、それを通過することで心の壁を破ったように感じさせる。儀式や通過儀礼というものは、人間の成長にとって欠かせないものなのだとしみじみ。
ホドルフスキー信者が集まったそこそこ大きなホールで、癌と闘病する女性がホド先生とともにステージに上がり、先生の呼びかけに呼応して会場の人々全員がパワーを送るところは壮観だった。非科学的に見えるけど、「ステージに立って、たくさんの人からのパワーを一身に浴びる経験をする」ことが心に与える影響の大きさ。想像するだけで、一生忘れられない出来事になりそう。
自分の人生を無意味だったと語る88歳の女性。いわゆる老年性うつなのだと思うが、この女性にホド先生が与えたアドバイスが、「大きな樹に毎日水をあげる」。
全身を金色に塗ったり死体のふりをしたりするような派手なセラピーに比べてずいぶん普通なんだけど、ここにある教えがホド先生ならではのスケールの大きさ。「水をあげることで、あなたはこの樹の一部になる」。この教えにより巨木との一体感を得ることで、生命力を取り戻すのが目的なのだ。これも、彼女のホド先生への絶大な信頼と愛があればこそ効果があるのだろう。おんなじことを嫁とかに言われても、このバアさんは「ハァ?あんた私に説教するなんて何様なの?ああ、誰も私の苦しみなんかわかっちゃくれないのよね…ヨヨヨ涙」とかなんとかいじけるだけだろうしね。
私もうつっぽくなりそうな時は、嫁に「お義母さん、気分転換に公園に散歩でも行ってきたら?(ウダウダぬかしてうっとおしいから出かけてくれ)」とか言われる前に、このサイコマジックを試そうと思う。嫁いないけど。
湯っ子

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