優しいアロエ

ホドロフスキーのサイコマジックの優しいアロエのレビュー・感想・評価

3.6
〈自己のセラピーから他者のセラピーへ〉

 カルトの帝王は、本当にカルト教団の教祖のようなことをやっていた!

 サイコマジックとは、「科学」ではなく「芸術」による救済を信条とする心理療法だ。「母乳に見立てたミルクを老母の乳房から飲む」「家族の写真を貼ったカボチャを粉砕する」といったホドロフスキーらしい直喩的なアクションを以て、陰鬱な表情を浮かべる患者たちを浄化していく。

 ホドロフスキーは、これまでも人間の再生や浄化をコンセプトに作品を手がけてきた。だが、それらはどちらかと云えば“自己”救済的なものだった。ホドロフスキー本人やその分身を主人公に据え、両親との軋轢や世の中への諦観をテーマとしていた。『ホーリー・マウンテン』だけは例外的に〈ホドロフスキーが他者を救済する〉構図をとり、最後は我々の生きる現実にまで訴えてきたのだが、その後は『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』と自伝的要素を強めていった。 

 だが、ホドロフスキーはその裏でちゃんと他者の救済に挑んでいた。本作はこれまでに行われたサイコマジックの記録映像を交えながら、その実態へと迫っていく。

 両親との不和を経験したホドロフスキーであるから、患者にも両親や家族との関わりに悩む者が多い。それをホドロフスキーは言葉ではなく行動によって、そして持ち前の包容力によって浄化へと導いていく。

 ただ、正直これはホドロフスキーの存在ありきの試みだとは思った。私だって全裸になってホドロフスキーと抱擁したらぜったい気持ちいい。“あの”ホドロフスキーが非日常な体験へと導くからこそ救済されたように感じるというプラシーボ効果の側面はあるのではないか。ホドロフスキーと関係ないところでサイコマジックは効果を発揮するのだろうか。

 また、構成が単調だったため、一本のドキュメンタリー映画としては凡庸だろう。
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